ゆっくりお風呂につかって冷えた体を温める、今夜のバスタイムが待ち遠しい、そんな季節になりました。また年末のお風呂といえば恒例のゆず湯。12月21日(水)は全都の銭湯で冬至のゆず湯が行われます。
(※)ゆず湯は実施日が異なる銭湯もありますので、ご利用の浴場までお問い合わせください。

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「1010」でも毎年ゆず湯の季節には、その起源や効能について繰り返しお伝えしてきました。これまで効能については経験的なものに基づく説明が多かったのですが、ゆず湯の効能に関する実験が行われたことはご存知でしょうか。東京ガスの都市生活研究所が行って発表したものです(2015年9月)。

ユズの果皮にはリモネンやα-ピネンといった芳香成分が豊富に含まれており、抗菌、消炎、血行促進作用があるとされています。だからこの季節に起こりがちなひび、あかぎれといった皮膚症状、体の冷え、カゼの予防などにいいというわけですね。しかもユズの香りは多くの日本人に昔から親しまれており、この香りに包まれて入浴すればリラックス効果も増幅するのです。

東京ガスの都市生活研究所では、春夏秋冬の薬湯の効果についての興味深い実験結果を『快適バスライフのすすめ』というレポートで発表していますが、ゆず湯については冬の薬湯の項で、入浴後の保温効果について、さら湯との比較が示されています(下図)。いずれも入浴時間は10分。入浴前と比べて、湯上がり後の皮膚温はゆず湯のほうが約1.5度高くなっていることがわかります。

■ゆず湯入浴による平均皮膚温の変化

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※都市生活研究所調べ(n=4)

さらにこのグラフから、ゆず湯の場合は、湯上がり50分後もさら湯より皮膚表面の温度が高くなっていることがわかります。これはユズの芳香成分による影響です。芳香成分は主に皮膚を刺激して、保温を促す作用があるからです。

最近では家庭でゆず湯をあまりやらなくなりましたが、もっと手軽な温州ミカンの皮を袋に詰めて湯船に浮かべたりはしますね。ユズもミカンも同じ柑橘類ですから、含有成分はかなり類似しています。ですから同様の保温効果は蜜柑湯でも得られるのですが、都市生活研究所の実験では微妙に効果の差があることがわかりました。下が蜜柑湯入浴の平均皮膚温の変化図です。

■蜜柑湯入浴による平均皮膚温の変化

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※都市生活研究所調べ(n=4)

湯上がり後の皮膚温も、50分後の皮膚温もみかん湯よりゆず湯のほうが高いことがわかります。もちろん、いずれも、さら湯より保温効果が高いことは言うまでもありません。でも、ユズはミカンより値段が高いので、なかなか家庭のお風呂に浮かべるのは厳しいですよね。そんなわけで、冬至の日にしか味わえないのですが、ゆず湯はぜひ銭湯でお楽しみください。

もうひとつご紹介したいのが、銭湯のほうが家庭のお風呂より付加価値が高いというお話。ただし安全面でのことです。入浴中の死亡事故は毎年1万数千件起きていますが、東京都の調査では、平成27年1~2月および12月の合計死亡事故件数は668件(速報値)。全1428件の47%に当たりますから、冬場の入浴は危険がつきものなのです。

これは朝日新聞が報じたことですが、大阪府で「2013年に異状死として警察が扱った案件のうち、入浴中の死者は403人(平均年齢76・9歳)。場所は自宅の浴槽が最も多く352人、次いで公衆浴場が30人だった。入浴中に救急搬送され、一命をとりとめたのは33人。入浴中に意識を失った場合の『救命率』を計算すると自宅は約5%。公衆浴場は約35%と差があった」ということです。大阪府の監察医でもある黒木尚長教授(法医学)らが大阪市の実態を調査。11月に開かれた日本救急医学会で発表したものです。

朝日新聞の記事は以下に続きます。
「大阪市内に約560ある介護保険事業所の事故を調べると、入浴が原則20分未満の『介助付き入浴』では死亡例はないが、長風呂も可能な『1人入浴』は4人死亡していた。湯は41~44度に設定され、発見はいずれも入浴後30分以上たってからだった。死後2時間経過後の直腸温が40度を超す例もあった。死亡した4人は持病などから類推し病死または溺死と判断されたが、黒木教授は熱中症の疑いを指摘する。長風呂で体温が上昇、知らぬ間に熱中症になって意識を失い、心肺停止になったり溺れたりする。汗をかきにくい高齢者はより影響を受けやすいという」

熱中症は夏だけの話かと思ったら、入浴中にも起こるのですね。決して無理のない入浴時間を意識して守ることが大切でしょう。いずれにしても、大勢の人の目がある銭湯は、特に高齢者にとって安全、安心の施設に違いありません。

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●資料:東京ガス『快適バスライフのすすめ』