前回は家庭風呂の浴槽と銭湯の大きな浴槽の比較実験で、主に肉体への影響について紹介しました。今回はメンタルな面で、浴槽サイズの違いがどんな影響を及ぼしているのか、脳波を指標として行った実験結果についてお話します。

いきなり「脳」の話ですが

 人の脳は膨大な数の神経細胞からできていて、体のすみずみまで支配しているとてもデリケートな器官です。そして、各細胞にはシナプスという突起部分が付いていて、情報を隣の細胞に伝達したり、受け取ったりしていますが、情報伝達は電気的な衝撃(インパルス)によって行われます。その時に流れる微量の電流は、一定の周期を持った振動波を形成しており、これがいわゆる「脳波」なのです。まあ、例えて言えば脳は発電所で、後で述べるように様々なタイプの電気を作って流しているとご理解ください。

2-脳断面

(画像出典:グレイ解剖学1918年版)

 脳波の波形(つまり電流のタイプ)はベータ(β)、アルファ(α)、シータ(θ)、デルタ(δ)の4種類。アルファ波は、心からリラックスしている時や、雑念のない状態の時、モーツァルトなどの音楽を聴いている時に優勢になる脳波で、こういう時は能力を最大限に発揮することが可能になります。ですから、勘が冴えて、いいアイデアも浮かび、仕事や勉強の能率も当然上がります。アルファ波は、心を安定させ脳を活性化させる脳波。修行を積んだ高僧やヨガの行者の脳波は、瞑想状態に入るとかなりきれいなアルファ波を描くといわれています。

3-表

 ベータ波は、昼間活動している時に出る脳波で、めんどうな仕事をしてイライラしている時や、心配ごとがあってそわそわしている時、試験などで緊張している時に断続的に出現。ストレス量に比例する脳波です。シータ波とデルタ波は、主に睡眠中に出る脳波。シータ波はウトウトしているような比較的浅い睡眠中に出て、デルタ波は熟睡している時に出ます。

5-脳波計

実験で使用した脳波計

リラックス脳波にターゲットを決めて

 そこで実験班はリラックスの度合いを見るために、アルファ波がどのくらい優勢に出ているかを指標に入浴中の脳波を測定しました。ちなみに脳波というのは、4種類のどれか1種類だけが単独で出現するというのではなく、いつも複数の脳波が出ているのです。ですから、どの脳波がどれくらいの割合かによって、どういう精神状態にあるかを判定するわけです。

 今回も家庭用の小さい浴槽と銭湯の大きな浴槽、そして銭湯の大きなジャグジー浴槽の3種類で比較しました。入浴前に30分の安静を保った後、脳波測定機器を付けて6分間入浴をしてもらい、入浴後30分までの脳波を測定しました。

 結果は小さい浴槽に比べ、大きい浴槽のほうが、断然アルファ波の占める割合が多くなりました(図から分かるように、大浴槽は小浴槽の3〜6倍発生)。特に浴槽に入り、「いい気持ちだなあ」というポイントでのアルファ波の割合が急に増えていることがよく分かります。一方、小さな浴槽では、入浴してもあまりアルファ波の変動はありませんでした。脳はこのように、結構正直なんですね。

 大浴槽では湯船から上がった後も長時間アルファ波が多く出続けており、心身ともに安定していることがお分かりのことと思います。

6-グラフ

アルファ波は「ガンをやっつけるお巡りさん」を元気にする

 現代人にとって、健康を損なう最も大きな原因は精神的ストレスの蓄積だといえます。疲れたと感じる状態は、ほとんどが精神疲労によるもの。精神的にダメージを受けた体は、生活習慣病をはじめあらゆる病気を呼び寄せやすくなります。

 人間の体には、ナチュラルキラー細胞(以下NK細胞)というさまざまな病気から身を守る、免疫システムが備わっています。このNK細胞はガン細胞が増殖して腫瘍を形成しようとすると、取り囲んで殺してしまいます。お巡りさんというか、兵隊さんというか、そんな細胞です。

 でもNK細胞というのは、ストレスなどに打ちのめされて気持ちが落ち込んでいたり、いつもネガティブな思考をしていると、元気がなくなってしまいます。つまり、心理面がとても影響する細胞なのです。

 不安や恐怖などからくるストレスを抱えていると、NK細胞の活性が著しく低下してしまい、病状をどんどん悪化させてしまいますが、「必ず治る」と信じ、前向きな気持ちで生活していると、NK細胞まで元気になって、ガンなどにも打ち勝つ治癒力がメキメキ高まります。だから患者の脳をアルファ波が優位な状態にすることがとても大切なのです。よく「笑ってガンを克服した」なんて話がありますが、あながち非科学的な話というわけではないのです。

 ストレスのない状態では、様々な病気から体を守るNK細胞が活発に働きます。したがって、健康を維持するには、受けたストレスをいかに早く体から追い出すかということが大切。アルファ波が優位な状態を持続していると、体の代謝が活発になり、免疫機能がアップして病気の発症にストップをかけてくれるのです。

 また、アルファ波がたくさん出ている状態で眠ると熟睡できて、短時間でも満足感のある睡眠が得られます。しかし、心配ごとなどのストレスを引きずった状態(ベータ波優位)で床に入ると、寝付けないばかりでなく、たとえ10時間以上睡眠をとっても疲労は回復しません。

 最近、体の歯車がすっかり狂ってしまい、自律神経失調症とか不眠症という病名を耳にする機会が多いですが、このような脳波の状態が背後に原因として潜んでいる可能性が大きいのです。