平成5(1993)年に創刊した銭湯PR誌『1010』のバックナンバーから当時の人気記事を紹介します。


〇月×日
「アンタは『1010』をよく読んでくれるけど、少し前の第55号に掲載された『2週間でボケが改善! 銭湯の強力水流活用法』という特集記事を覚えてる?」
「ええ。よくは覚えてないけど、銭湯の水流風呂に入るとボケないとかっていうやつでしょ?」
「そッそれ。その記事がね今度、アタシらの業界紙である『全国浴場新聞』に再掲載されたんだ」
「浴場新聞? それで……」
「ウン、つまり『銭湯に入ればボケない』というスゴイ情報を、全国の風呂屋を通して、日本国中の銭湯ファンにPRしようっていうことなんだよな」
「日本国中のねえ。で、詳しくはどんな内容でしたっけ? 」
「ウン、かいつまんで言うと、北海道大学の名誉教授で温泉医学の権威である阿岸祐幸先生がね、アルツハイマー性痴呆症の疑いがある高齢者に実験をしたんだ。強力な温水流による体表面揺れ刺激を1日30分……」
「タイヒョウメンユレシゲキ? それ、どうゆうことですか?」
「ウーン、大学の名誉教授のいうことだからムズカシイけど。ま、風呂屋のオヤジが解説すりゃあ、風呂ん中でさ、ジェット水流がシューシュー出てんだろ。それを体に当てりゃあ体が揺れっだろ。だから、ユレシゲキ……なッ」
「フーン、それで……」
「ウン。その揺れ刺激を2週間加えたら脳波が正常域に戻って、アルツハイマーが治っちゃったんだってさ。スゴイだろ」
「へ~ェ、それで……」
「また、それで、か。それでね、先生のおっしゃるにはだな。水流風呂に入って水流が体に刺激を与えると、脳神経細胞が再生され、ボケの進行を止めたり、回復を促すことは十分にあるってんだな。つまり、銭湯の水流風呂によく入っていればボケないし、ボケてる人も治っちゃうんだってさ」
「ノーシンケイサイボウって? 」
「脳神経細胞っていやあ、脳の神経の……細胞の……、オイ難しいことを聞くなよ。それとね、アンタのような若い人でも水流風呂にあたると脳細胞が活性化して記憶力がよくなるんだって」
「ほんとですかねぇ」
「ホントもテントもないよ。風呂屋のオヤジの宣伝文句じゃなく、国立大学の名誉教授がおっしゃってんだからな。それと先生はこうも言われてんだ。『痴呆症を予防するために銭湯を活用するポイントは、最低でも1日おきくらいに銭湯に通い、8~10分入浴して5分休むというのを3回くらい繰り返すといい。もっと銭湯を活用することで体も頭も心も元気な高齢者が増えるでしょう』ってね」
「フーン、銭湯は痴呆症予防に最高っていうことですか?」
「そうッ、ビッグニュースだろ。そこで話が戻るんだけど、アタシャね、全国浴場新聞の記事をB4に拡大コピーして30枚ぐらいパンフレットを作り、フロントで高齢者の方に配ったんだよ」
「ホウ、それはいいアイデアですね。で、年寄りの反応は?」
「そりゃあアンタ、大学の先生が『銭湯の水流風呂に入ればボケない』ってお墨付を与えてくれたんだ。皆さん、目ぇ光らせて聞いてくれるし、喜んでパンフレットを持っていかれるよ。人間、誰だってボケたくねえもんなあ」
「でもオヤジさんは、まだボケはないでしょ?」
「オレかい? とんでもねえ、物忘れがひどくて困ってんだよ。お客さんの名前も忘れちまうし、完全にボケが始まってる……?? ウンそうだッー、オレも今日から毎ンち水流風呂に入るぞッ!」


【著者プロフィール】 
星野 剛(ほしの つよし) 昭和9(1934)年渋谷区氷川町の「鯉の湯」に生まれる。昭和18(1943)年戦火を逃れ新潟へ疎開。昭和25(1950)年に上京し台東区竹町の「松の湯」で修業。昭和27(1952)年、父親と現在の墨田区業平で「さくら湯」を開業。平成24(2012)年逝去。著書に『風呂屋のオヤジの番台日記』『湯屋番五十年 銭湯その世界』『風呂屋のオヤジの日々往来』がある。

【DATA】さくら湯(墨田区|押上駅)
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2003年12月発行/65号に掲載


銭湯経営者の著作はこちら

「風呂屋のオヤジの番台日記」星野 剛

 

「湯屋番五十年 銭湯その世界」星野 剛(絶版)

 

「東京銭湯 三國志」笠原五夫

 

 

「絵でみるニッポン銭湯文化」笠原五夫