【銭湯のイメージを覆すエントランス】
「ふーん、なんだかオシャレな建物だな……」
それが杉並区上荻の「GOKURAKUYA(ごくらくや)」を訪れたときの第一印象だった。
店名がアルファベットというちょっと変わった銭湯の取材を依頼されて、まずはお湯を体験しておこうと取材の前日にうかがった。
青梅街道から路地に入ってすぐ、マンションの一階にその入り口はある。
「これは……ビジネスホテル?」
全面ガラス張りの機能性を感じさせる入り口を通り、券売機でチケットを買う。やはり機能的な雰囲気のカウンターでチケットを渡し、脱衣場へと向かう……と、あれ?
「一筆書きの壁画?」
男女の脱衣場入り口を案内するのは、原宿あたりのヘアサロンを飾っているような、おしゃれなタッチの壁画。
「風呂屋の壁画と言ったら、富士山じゃないの?」
やっぱり変わっている。
【風呂上がりのひと時を楽しめる、居心地のいい脱衣場】
さらに歩みを進めて脱衣場へ。シックな色合いの木製ロッカーに暗めの照明。そして、その向かい側にあるのが、横幅3mはあろうかという大鏡。「おしゃれだな……」
店名から受ける印象そのままに、館内全体がスタイリッシュにまとめられている。
そして、洗い場。
ロビーや脱衣場が機能性にあふれているのに対し、洗い場は清潔感あふれる落ち着いた雰囲気。細部にわたって創意工夫が凝らされている、というのが、実際にうかがってみた感想だ。
さて、おしゃれな店のたたずまいとともに、目についたのが脱衣場のお客さんたちの様子。どなたも長尻(ながっちり)で、風呂上がりの時間を思い思いにくつろいでいる。
「なるほど、この雰囲気が『ごくらく』なのか……」
【昭和元年創業の銭湯を継いだ三代目】
「こんにちは」
翌日取材に訪れると、出迎えてくれたのは店主の篠田明紀さん。まずは店の来歴からお話をうかがった。
「創業したのは昭和元(1926)年と聞いています。その時の経営者は私の祖父の慶治で、すでにここには銭湯があり、祖父はそこを引き継いだそうです」
そして、二代目の麻市さんの後を三代目の明紀さんが継いで現在に至る。
明紀さんが継いだのは平成2(1990)年のことだ。当時の店名は「妙法湯」といった。建物も伝統的な宮造り。その妙法湯を三代目として継ぐことに、葛藤がなかったわけではない。しかし、「継ぐなら、自分らしい店に生まれ変わらせよう」というひらめきが、その迷いを断ち切った。
「新しい店名は『ごくらくや』にしよう。その表記もアルファベットがいい」
その理由は、ただ、他の銭湯にない表記だから。
ご両親は、そのアイデアを「好きにしたらいい」と認めてくれた。さらには、建物もマンションに建て替え、その一階を銭湯にした。
以来、30年営業を続けてきたが、2020年頃から客数が減少するようになったという。そこで一念発起して令和6(2024)年に改修を行った。
【デザイナーと熟慮を重ねたインテリア】
改修にあたって、課題となったのはコンセプト。イメージはある。ただ、それを具体化するすべが明紀さんにはない。幸いなことに、親しいデザイナーが相談に乗ってくれた。彼とディスカッションを重ねるにつれて、固まっていったコンセプト。それは「非日常」。一般的なお風呂屋さんとは異なる雰囲気にすることを目指した。お客さんがこの「GOKURAKUYA」を評して、「ライブハウスのようなお風呂屋さん」というのは、言いえて妙だ。
入り口を拡張し全面ガラス張りにして玄関スペースを設け、ロビーや脱衣場をシックな雰囲気に改修した。目を引く壁のイラストは、一筆書きイラストレーター・ゆいはんの作品だという。当初はなじめなかった常連客もいたようで客数は若干減ったものの、現在は店のテイストが新しい客層に受け入れられ、来店客数は増えつつあるという。
【人気は肌に優しいシルキーバス】
コンパクトな浴室には、地下100mから汲み上げた井戸水を使用した水風呂のほか、その井戸水を沸かしたお湯を満たしたジェット風呂、シルク風呂、電気風呂(電子マッサージ風呂)を備えた4種類の湯船がある。温度にもこだわりがあるのかと尋ねると、明紀さんから返ってきた答えは意外にもシンプルだった。
「お湯の温度ですか? それほどこだわってはいないですね。お客さんがたくさん入れば自然と下がるし。それでも結果的にお客さんにとって心地よければそれでいい」
「一番人気は、シルキーバスですね。微細な泡で浴槽が満たされて、肌に優しいと評判なんです」
また、根強い人気を誇るのがサウナだ。多くのお客さんが、ととのいを求めて足を運ぶ。
「温度は90度ぐらい。取り立てて特別なことはしていません。セルフロウリュ方式で、お客さん自身に楽しんでもらっています」
サウナを味わったお客さんにとっても、ここは『ごくらく』なのだ。
サウナはこぢんまりしているので、利用する際は公式サイトの「サウナ利用状況」で事前にチェックするのがおすすめだ。こちらのサイトでは毎週日曜に実施する薬湯の種類もわかる。
【これも「ごくらく」、自由に過ごせる休憩室】
お湯やサウナを楽しみ、脱衣場でリラックスする姿が見られるのはすでに述べた通り。だが、GOKURAKUYAにはもう一つリラックスできる場がある。それは2024年の改修で新たに設けられた2階の休憩室だ。
階段を上がって足を踏み入れると、そこはあまりに明るくて、まるでデザイナーズホテルのラウンジのよう。この休憩室をどのように使うかは、利用者次第。
「中には、いったんここでパソコンを開いて仕事をして、それからお風呂に入る人もいますよ」
店名の由来は「他にない表記だから」とのことだった。だが、脱衣場や休憩室で、風呂上がりをのんびりと過ごす利用客の姿を見ていると、「GOKURAKUYA(ごくらくや)」という名は、この店の魅力を的確に表しているように思える。
(写真・文:銭湯ライター 丸 広)
【DATA】
GOKURAKUYA(杉並区|荻窪駅)
●銭湯お遍路番号:杉並区 10番 (銭湯マップはこちら)
●住所:杉並区上荻2−40−14
●TEL: 03-3390-6764
●営業時間:16:00−24:00(最終受付23:00)
●定休日:火曜
●交通:中央線「荻窪」駅下車、徒歩7分
●ホームページ:https://www.italworks.com/gweb/
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