当ホームページの11月13日の「トピック」でお知らせしているように、今年2月の初開催で人気を博した銭湯とサンシャインシティのコラボイベント「さんしゃいんの湯」が、11月26日(木)から4日間、再び開催されることになりました。「さんしゃいんの湯」といえば注目の的が足湯。銭湯をイメージした巨大暖簾や、富士山などのペンキ絵を大型ビジョンに放映し、銭湯気分を感じられる空間で、温泉の素などを使用した数種類の足湯が実施されます。

でも、お風呂に入るなら全身浴が常識。足湯はなんだか中途半端、と思っている方が多いのではありませんか?

足湯は「足浴」ともいわれ、意味はほぼ同じようです。強いていえば、足浴は医療や介護の現場で多く使われている言葉。お湯を張った容器にじっくり足を浸けて全身を温める足湯に対して、足浴には「膝から下を洗って清潔にする」という意味が含まれています。例えば手術の傷などがあって、膝から下しかお湯に浸かれない患者さんに施す入浴法のことなのです。それはともかく、足湯に関する医学的な研究報告は数多くあります。

例えば男女193名が3か月以上足湯(湯温42℃、20分)を継続した結果、体温が平均0.7℃上昇したという報告があります(大湯リハビリ温泉病院・第77回日本温泉気候物理学会総会一般演題・2012年)。また、2009年には20歳前後の男性19名で足湯を行った結果(15分を2回、30分を1回)、心拍数や血圧の低下、自律神経の安定などが認められたという論文も出ています(足浴が生体に及ぼす生理学的効果・金子健太郎ほか)。

2004年には帝京平成大学の上馬場和夫教授が行った実験で、「ぬるめの湯で足湯をすると、副交感神経の働きが高まり、リラックス効果が得られる」と報告しています。副交感神経は、無意識に体の様々な機能を調節する自律神経の一種で、活動していない時に活発に働きます。実験は15人を対象に、炭酸泉で30分間、足を湯につけて行われました。

このほか、足湯には免疫機能を高める可能性も示されています。京都看護大学の豊田久美子教授らは、10人を対象に20分間の足湯を行ってから血液を調べたところ、免疫をつかさどるリンパ球の一種であるナチュラルキラー(NK)細胞の活性がそのうち7人で上がった、と報告しています。また、藍野大学の本多容子教授らは、足湯が高齢者の転倒防止に役立つことを見つけました。70代の女性20人を対象に10分間ずつ足湯を試みたところ、以前よりつま先を反らせる角度が大きくなり、バランスを崩しても踏みとどまりやすくなったと報告しています。足湯によって関節や軟骨、筋肉が温まり、柔軟性が増して可動域が広がったためとみています。

このように足湯の実験はたくさんありますが、残念ながら足湯と全身浴を同じ被験者で比較した実験報告は見当たりません。したがって、「足湯は膝から下をじっくり温めることで全身の血流を促進し、体をしっかり温めてくれるし、足にたまった老廃物を排泄してくれるのでデトックス効果もあるのです」と情緒的にいわれても、だからといって全身浴より優れているという証明にならないのは事実です。ただ、確実な足湯のメリットがないわけではありません。足湯が最も体に負担をかけない入浴法である、という点です。どういうことでしょうか。

全身浴はいうまでもなく、体全体に水圧を受ける入浴法です。それはそれで利点があるのですが、血圧が上昇しやすく血管や心臓に負担をかけやすい、というデメリットもあります。足湯なら浸かっている膝下しか水圧を受けませんから、急激な血圧の上昇もなく、体への負担を抑えて全身を温めることができるのです。

もともと「足湯」は心臓に疾患を抱えているなどの理由により、全身浴での入浴が困難な人を対象とした入浴法として、医療や福祉の分野で実践されてきたのですが、ある製薬会社のホームページによると、次のような興味深い話もあります。

「足湯は、銭湯や温泉文化が発達した日本人にとっては、古くから知られているフットケア入浴法の一つです。私たちがいつから足湯を楽しむようになったのかについては、これといった記録が残っていませんが、紀元前の温泉を楽しんでいた時期から、足湯は冷えを取り除く入浴法として、楽しまれていたのではないかといわれています。ちなみに、今のようなフットケアとしての足湯が定着したのは、江戸時代になってからのことだそうで、たとえば江戸時代の健康に関する書籍を書かれた『養生訓』の著者である貝原益軒は、体が弱い妻のため、毎晩のように寝る前に足湯を用意して、妻の免疫を高めて、病を予防するフットケアを実践されていたそうです」
(大源製薬 https://www.e-daigen.co.jp/html/page3.html#hirou

繰り返しますが、足湯は体に余分な負担をかけずに全身の血行を促進し、体をしっかり温めてくれる入浴法なのです。しかも血行を促進しますから、むくみや冷え性を改善する効果も期待できそうです。そもそも足もとは、体の中でも特に血行が悪くなりやすい部位です。足が冷えやすかったりむくみやすかったりするのは、血行が悪くなりがちだから、ということにほかなりません。

全身浴との比較ではありませんが、足湯を習慣的に行っている人の多くが口にするのは快眠効果です。入浴と睡眠の関係については、以前このコラムの⑬で詳しく解説しました。足浴の場合も同じような原理であると考えられますが、体に水圧というストレスをかけずに副交感神経が活発になってリラックス効果が高まるのだとすると、案外、快眠習慣へ導きやすい方法なのかもしれません。

足湯は最近、各地の道の駅や温泉場、さらに公園などによく設置されるようになりました。日本ばかりでなく、台湾でも足湯は人気のようです。写真は、日本統治時代に開発された礁渓温泉の町の公園に作られた無料足湯施設。一日中ここには市民が集って楽しんでいます。

 

銭湯でも足湯を試みたいところですが、注意が必要です。湯船のふちに腰を下ろして楽しみたいところですが、衛生上それはタブー。洗い場で浴場備え付けの洗面器に足を突っ込むのもマナー違反です。足湯のための設備を特に設置してある銭湯は調べた限り東京で1軒だけ。「さんしゃいんの湯」で体験して効果を感じたら、足湯は家庭のお風呂で続けてください。そして銭湯では心行くまで全身浴を。

世田谷区の天狗湯には足湯のできる湯船がある

 

家庭で足湯をする場合、100円ショップに売っているようなバケツか深さのある洗面器で十分楽しめます。必要なお湯の量は、足を入れた時にくるぶしから5~10㎝ほど上まで浸かる程度がいいとされています。

足湯に適したお湯の温度は、38~40℃。熱めのお湯が好きな方には少しぬるく感じる温度かもしれませんが、リラックス感を生む副交感神経を刺激するにはこれが適温。個人差はありますが、30~45分を目安に足湯をすると全身が温まり、じんわりと汗が流れてきます。この「汗じんわり」が終了のサイン。お湯はもちろん徐々に冷めますから、途中で注ぎ足してください。なお、足湯をする際にも通常の入浴同様、水分の補給は大切です。

ところで、2003年には「香りと足浴によるリラクセーション効果に関する生理心理学的検討」という実験報告が行われ、ラベンダーオイルを添加した湯で足浴を行ったところ、心理的に疲労感が改善し、また足湯を行った後、リラックス脳波といわれるα波が増えて入眠効果が高まったとしています。香りと入浴の相乗効果についての研究はまだ多くはありませんが、今後の研究が待たれます。

また、エビデンス(医学的な根拠)はありませんが、足湯で温冷交代浴を楽しむ人もいるようです。20分程度の温浴の後、20~25℃の水で1分ほど冷浴を行い、これを数回繰り返すと体の疲れが取れて、精神的にもリラックスが得られるといいます。

なおこれからの季節、足を乾燥から守るために、足湯後のケアも忘れてはなりません。お湯に長時間浸すと肌の油分が奪われ、乾燥が進みます。足湯を終えたら保湿クリームを塗ってしっかりケアしてあげましょう。


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