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銭湯に行き慣れているとは言っても、初めて足を踏み入れる銭湯ではやはり緊張する。筆者はそもそも方向音痴なので、上手く辿り着けるかどうかが、最初にクリアしなければならない問題。その点、墨田区にある高砂湯は安心だ。最寄りの都営新宿線「菊川駅」A3出口から出ると、目の前に案内板があり、そこには親切にも「ゆ」の暖簾マークが(喜)! まずは第一関門クリア。

無事にお店の前まで辿り着き、銭湯の外観を見上げる。どんなお風呂屋さんだろう? おそるおそる引き戸を開ける。と、「いらっしゃ~い!」の優しくて温かい声。なんとなく安心。次に目の前に現れた気さくな笑顔で、不安はいっぺんに吹っ飛んだ。

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街区案内板に銭湯が表記されているのは珍しい

【ガソリンスタンド時代に培ったノウハウで顧客数アップ!】

素敵な笑顔で出迎えてくれたのは、現在高砂湯を切り盛りしている、ご主人の高波芳之さん。優しい笑顔と溢れるアイデアで、この下町の銭湯を支えている。

例えば、常連客を増やそうと始めたのが「一人一声運動」。お風呂から上がってきたお客様に「今日どうでした?」と声をかける。するとお湯の感想から始まって、故郷の話や趣味の話など、いろいろ広がっていく。実は芳之さんは北海道小樽のご出身。この一人一声運動を始めたら、なんと北海道出身の方が多いことに気付いたそうだ。お互いに懐かしい故郷のイントネーションを聞くことができるのも、銭湯での会話のおかげとしみじみ語る。

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ご主人の高波芳之さん

また、常連のサウナ利用客には、「◯◯さ~ん、今日は暑いね」など、名前を呼びかけながら、下足札を芳之さん手作りのオリジナルの名札とセットにして預かる。「お客さんって、名前を呼んでもらえると嬉しいんだよね」とにっこり。

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フロント内側から。名札の位置が一目で分かる

こんな心がこもったおもてなしを日々提供しているなんて、一体何者!? と思いきや、銭湯の仕事に従事する前は、ガソリンスタンドで働いていたそう。気持ちよく利用してもらうために、お客様とのコミュニケーションは必須で、そのときのノウハウが銭湯でも活かされている。「来て帰るだけなら面白くもなんともない、せっかくだから楽しい気分になって帰ってもらいたい」と、2年前からこの「一人一声運動」や「名札サービス」を始めたところ、なんと常連客が一年で2倍に増えた!

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掃除はシャワーヘッドの向きにもこだわる

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おかまドライヤーは外も中もピッカピカ

【ハード面でも"ハート"のおもてなし】

高砂湯のおもてなしは、接客だけにとどまらない。施設面でもお客様目線の配慮が行き届いている。

玄関や浴室内には至るところに手すりや椅子が設置されているので、お年寄りも安心。また、万一体調が優れない時のために「呼び笛」を浴槽壁に用意。なるほど、実際に浴室にいたら、よほど大きな声を出さなければフロントまでは届かない。具合が悪い状況で声を出すのはかなり困難なので、大きな音が出る笛を用意したのだという。

このように、効果的なやり方を常に考えているそうだ。「思い立ったらすぐ実行する、"すぐやる課"を作ったんですよ、自分一人だけどね(笑)」

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椅子とカラン毎に取り付けられた手すり

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可愛いイラストは常連さんが作ってくれた

【強力ジェットでお腹周りマイナス1cm!?】

お客様に高砂湯の魅力を伺うと「冷水風呂」と「強力ジェット」と答える人が多いと言う。

まず、水風呂ならぬ冷水風呂は、大体16℃設定。常に機械で温度管理をしているそうだ。場所柄、力士の方も多く通って来るそうで、この冷水風呂がお気に入りとのこと。大きな体で「冷た~い」と言いながら、なぜか二人一緒に入るという様子を想像すると、なんとなくほほえましい。

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「水温よ~し!」

そして、高砂湯の誇る強力ジェットバス。小学生ぐらいだと飛ばれそうな勢いのジェットが、凝っている部分をほぐしてくれる。ついでにお腹まわりのお肉もほぐしてくれるから、なんとなく細くなった気分。実際、帰ってから計ったら、朝より1cmスリムになっていた(嬉々)!!

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浴槽から飛ばされそうなほど、強力なジェット

【家族と、お客様と、いなせな交流場所】

今回の取材中は、高校生のお嬢さんも同席してくれた。時々お店の手伝いをしてくれるそう。
「小さいころは、休みに家族で遊びに行った話をしている友達が羨ましいときもあったけど、その代わりお店のお手伝いをして、一番風呂に入らせてもらうのがとても楽しかった」とニコニコしながら語るお嬢さん。高い所の掃除も平気だそうだが、その理由が「祖母がやるのを見てるほうが怖い。自分が落ちたほうがまだマシ(笑)」とお父さん譲り(?)の屈託のない笑顔で話す。この明るさと優しさはきっと高砂湯のDNAなのだろう。

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「いらっしゃいませ」。かけ声も息ピッタリ

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「やっぱり、ちょっと照れるね」と、ご主人

一見さんではなく、常連客が確実に増えている高砂湯。インターネットやSNS系は一切やらないが、代わりにお客さんの強力な口コミが地元の人たちを惹き付けている。

お客様が「ごちそうさん」と言って帰ってもらうのが何よりの喜びという芳之さん。大切なものが何かということを真っ直ぐに教えてもらった気がした。

(写真・文:銭湯ライター 荒木久美子


【DATA】
高砂湯(墨田区|菊川駅)
●銭湯お遍路番号:墨田区 44番
●住所:墨田区立川4-11-12
●TEL:03-3631-3233
●営業時間:15時半~24時
●定休日:水曜
●交通:都営新宿線「菊川」駅下車、徒歩3分
●ホームページ:–
銭湯マップはこちら

※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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ピカピカの快適空間

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ご主人の神輿(みこし)仲間の、笑顔が素敵な常連さん