【風情ある下町の日常を体験】

平成30年1月某日、東京でも最低気温がマイナスになった冬日に、江東区北砂の竹の湯を訪れた。今日のコースは都営新線の西大島駅を出発点に、西大島散策→竹の湯→砂町銀座商店街で締めくくる。風情ある下町の日常を体験しよう。

西大島駅を背に、南へ進むと江戸時代に栄えた水運の名残を感じる小名木川がある。小名木川に架かる進開橋付近は、「水辺の散歩道」が整備され、ランニングや散歩に適した直線の景色が清々しい。

進開橋を渡り、昭和の風情が残る稲荷通り商店街に竹の湯はある。「この辺りは、工場や製鉄所があった工業地帯だった。最近は工場跡地に大きなマンションが建って、人口が増えたね」と話してくださった竹の湯・店主の仲前利昭さんは、この地で生まれ育ち、自身が3代目である生粋の江戸っ子だ。

th_2-1-IMG_8469_①小名木川

小名木川沿い。直線コースで歩きやすい

th_2-2_8589

商店街に面した竹の湯の入り口

昭和の初めに開業した竹の湯は、第2次世界大戦の戦禍で辺り一帯が焼け野原となり、無情にも店と母屋が焼けた。唯一残った釜場と倉庫を活かし、昭和24(1949)年に再開を果たした。家庭風呂が普及していなかった高度成長期以前の、どの銭湯も繁盛していた時代で、「うちも番頭さんが3人いて、女中さんが2人いたな。1人の単価は安かったけど、お客さんの数が多かった。風呂付のマンションや団地が当たり前の今じゃありえないねぇ」と仲前さんは当時を振り返る。仲前さんのこの言葉には、多くの銭湯経営者が共感するだろう。

【今と昔が交差するモダン空間】

「うちの親父は新しい物が好きだった。約38年前、大工さんが2週間泊まり込んで、1ヵ月かけて改装したんだ」。40年近い時を経ても当時の設備は現役だ。

浴室の第1印象は「モダン」だ。視界の先にあるのは屋号に倣い、凛とした竹林の背景で、壁と天井は特殊素材を使用したストライプ。青を基本としたストライプ柄は、配色のバランスの良さにより、和洋折衷が織り成す昭和モダンの印象だ。

メインのお風呂は、L字型の湯船に3つの寛ぎがある。1つ目は勢いのある泡が心地良い、マッサージ効果があるボディマッサージ(座風呂)。2つ目は低周波の電流により血行が良くなると感じる電気風呂。3つ目は、手足を伸ばしてのんびりできる広い風呂。

th_3-IMG_8478_③壁竹

竹林の背景と高い天井。アート空間を感じる配色

th_4-IMG_8495_⑤風呂

一つ一つの湯船が広く、十分手足を伸ばせる

th_5-IMG_8493_④湯船1

広い湯船にはボディマッサージ(座風呂)、電気風呂も

th_6-IMG_8486_⑧椅子

積み方にも美意識あり。懐かしの緑の椅子も現役

立ちシャワーにも工夫があり、頭上のシャワーにプラスして、身体にあたる部分は左右、2方向に3つのシャワー口があるボディーシャワーになっている。なかなか面白い。普段、銭湯に慣れている筆者も広々とした空間に解放感を感じ、42℃を維持しているお湯から立ち上る湯気にホッと一息ついてしまう。

th_7-IMG_8502_⑦ボディーシャワー

多方向からシャワーが出る立体的シャワー。時短シャワーともいえる?

「毎日見ているから良さがわからないわ」と笑う、竹の湯の女将さんは「脱衣場の梁や柱も一枚板に見えるけど、建設会社の独自の技術なのよ」と教えてくれた。脱衣場を縁取る直線美の梁と柱は技術の結集である。そして至る処まで、行き届いた清掃には女将さんと娘さんに感謝したい。明るく清潔な脱衣場では、懐かしいお釜式ドライヤーや扇風機も現役だが、エアコンも完備されている。

th_8-IMG_8516_⑨脱衣場1

懐かしいベビーベッドや扇風機。クロスした天井の梁が印象的だ

【好きな機械いじりで支える銭湯】

竹の湯を支えている技術の高さにも触れておきたい。学生運動が最盛期だった頃に大学生だった仲前さんは、「学校に行っても、学校はやっていなかった。学生運動の真っ最中だったから」と笑った。なんとも昭和史を学んでいるようなエピソードだ。「だから、アルバイトして稼いだお金で車をいじったりしていた」。

大学卒業後は自動車会社へ就職し、カーレーサーの経歴もある。スピードというより、自身でメンテナンスした車の耐久性と、走行できる性能を重視していたとのこと。走り屋ではなく、「大の機械いじり好き」であることがわかった。今も店の脇には部品メーカー? と見間違える程の豊富な部品を持ち、ボイラー室は毎日手入れしている。「億劫に思う時もあるけど、自分で調節している。機械好きだからね。少しのモーター音の違いにも気が付くよ」と話す横顔は熟練工の顔だ。仲前さんの機械好きを息子さん達も受け継ぎ、保守点検体制は盤石だ。技術の高さをいうならば、仮に一般家庭の風呂が水漏れした時に、自分で修理できるか? を考えてみれば、仲前さん親子の技術の高さを想像できるのではないか。「風呂屋は機械がわからないとね。じゃないと、急に休んだらお客さんに迷惑かかるでしょ」。お客様の日常を大切にする銭湯だな、と感じた。最近では、お客様の高齢化や多様化の流れに合わせて、トイレを和式から洋式に改修した。「お客さんも綺麗なトイレがいいでしょ?」。確かに、綺麗な洋式トイレはありがたい。

竹の湯を出た後、自然と昭和を懐かしく思った。あとは、温まった心と身体の欲求は食欲だけだ。賑わう商店街の呼び込みと、おでんタネ屋の行列を横目に、焼き鳥屋から出る匂いに誘われ、砂町銀座商店街でお腹を満たす。

古きを活かし、新しきを取り入れたモダンな空間の竹の湯は、今日も湯気を立ててお客様をお迎えしている。心がじんわりと温まる銭湯だ。

(写真・文:銭湯ライター 山村幹子


【DATA】
竹の湯(江東区|西大島駅)
●銭湯お遍路番号:江東区 25番
●住所:江東区北砂3-25-8
●TEL:03-3644-0366
●営業時間:15時半~22時半
●定休日:火曜(祝日の場合は翌日休)
●交通:都営新宿線「西大島」駅よりバス。「北砂3丁目入り口」下車、徒歩5分
●ホームページ:–
銭湯マップはこちら

※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、予め御了承ください。

th_9-IMG_8565_⑪手ぶらセット

「この辺の銭湯の中では取り入れたのが早かった」という、充実の手ぶらセット

th_10-IMG_8567_⑫手ぶらセット②

お得な「らくらく入浴セット」は700円。シャンプー等は浴室に備え付けもあり

th_11-IMG_8530_②犬壁

インスタ映えする壁。茶色の犬は飼っていたワンちゃん

th_12-IMG_8560_⑩外観

夜間でも目印になる電光掲示板があるので安心

th_13-IMG_8554_⑭すなぎん

砂町銀座商店街(略して「砂銀」)で見かけたポップ

th_14-IMG_8556_⑮焼き鳥

お惣菜とビールが一店舗で揃うのがありがたい

th_15-IMG_8561_⑬とらちゃん

竹の湯ではトラちゃんがお出迎え。「招き猫」?「看板猫」? どちらも正解だ