江東区の北砂といえば「砂町銀座」が有名だ。道の両側にずらりと商店が建ち並び、メディアでもよく取り上げられる。そんな砂町銀座にほど近い「竹の湯」を訪ねた。

 竹の湯は、砂町銀座の1本北側に並行する「稲荷通り」商店街にある。「昔は店の前の商店街も栄えていたんだけど、だんだん砂町銀座にお客さんが集まるようになって、店が少なくなったね」と話すのはご主人の仲前利昭さん。

 竹の湯は石川県出身の初代が戦前にこの地で創業。戦災により焼失したものの、昭和24年に建て直して再開。昭和57年に中普請を行い、現在の形になった。利昭さんは3代目で、奥様と4人のお子さんで店を営んでいる。

 店内に足を踏み入れると全体的に広々した印象を受ける。以前は宮造り建築で庭があったが、中普請の際に庭を潰してロビー、脱衣場、浴室を広げたという。

1_0063
2_0054

 すっきり整理された脱衣場を抜けて浴室に足を踏み入れると、目を引くのが珍しいトリコロール柄の天井。背景画は屋号にちなんで竹林だ。

3_0009
4_0048

 湯船はL字型の一風変わった形。洗い場に突き出た部分が大きな湯船になっており、端のほうに電気風呂とジェットが吹き出す座風呂が並ぶ。

 下町といえば熱い湯のイメージがあるが、こちらのお湯は41〜42℃くらいでちょうどいい。湯につかって見上げると、青・橙・緑の3色が鮮やかだ。水色のペンキで塗られた天井を見慣れた目には、トリコロール柄の天井はひときわ印象的に写った。

5_0027
6_0021

 周辺にマンションが増えたことで、お客さんの年齢層は若返り傾向にあり、週末は家族連れも訪れる。また、江東区に多く住むインドやネパールの人が来ることもある。「こないだは “ここはプールですか?” なんて入ってきた外国の人がいました(笑)」。

 さて、この地で生まれ育った仲前さんによれば、半世紀の間に周辺の風景はずいぶん変わったそうだ。「以前は町工場が多い地域だったんですけど、軒並みなくなって、その跡地がみんなマンションに変わったんです」。そういえば、江東区は今も人口が増え続けていると聞いた。ファミリー層をターゲットにしてか、数年前には大規模なショッピングセンター「アリオ北砂」もオープンした。砂町銀座にも隣り合わせで、竹の湯がある北砂周辺はとても便利で人気のあるエリアらしい。

 ところで、ご主人の仲前さんは若い頃、銭湯の仕事を手伝いながら、自動車関連の会社に勤めて自動車のレースにも参加していたという大の車好き。物静かな佇まいからは想像がつかないが、A級ライセンスを持ち、かつては収入のほとんどをレースにつぎ込んでいたとか。現在はレースこそやっていないが、富士スピードウェイで行われる走行会へ、チューンナップした愛車のサニートラックで参加することもあるという。車好きの方はフロントにご主人がいたら話しかけてみては。きっと自動車談義に花が咲くだろう。

 そうそう、忘れていけないのが竹の湯の看板猫。元は野良猫だったが、居心地がいいのか、勝手に居ついてしまったという。今は開店するときにお客さんと一緒に入店し、フロントや女湯でくつろいで過ごしているという。なんと、気ままな! 名前はトラちゃんという。トラちゃん、いい家を見つけてよかったね。

 竹の湯へは、都営新宿線「西大島」駅からバスに乗るのが便利だが、できれば変わり行く下町風情を楽しみながら、のんびり歩いて向かうのをおすすめしたい。約15分の道のりだ。

(写真・文:編集部)


【DATA】
竹の湯(江東区|西大島駅)
●銭湯お遍路番号:江東区 25番
●住所:江東区北砂3-25-8
●TEL:03-3644-0366
●営業時間:15時半〜22時半
●定休日:火曜(祝日の場合は翌日休)
●交通:都営新宿線「西大島」駅よりバス。「北砂3丁目入り口」下車、徒歩5分
●ホームページ:–
銭湯マップはこちら

※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、予め御了承ください。

7_0075

ご主人の仲前利昭さんと奥様の美智子さん

8_0090

商店街沿いに店を構える

9_0096

外壁にはアーティストが描いたイラスト

10_0111

竹の湯の看板猫「トラ」