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銭湯を訪ねる前に、まず町を知るべし。今回訪ねる高砂湯の近辺を検索すると、重要文化財「鬼子母神堂」で知られる法明寺があった。それに夏目漱石やジョン万次郎を始め、数多くの著名人が眠る雑司ヶ谷霊園もほど近い。まずは銭湯の前に、史跡好きな筆者にお付き合いのほどを(笑)

副都心線「雑司が谷駅」と都電荒川線「鬼子母神前駅」は隣接している。カンカン照りの日差しから逃れ、道を一本入ると池袋のビル群にもほど近いとは思えない、鬼子母神堂へ続くケヤキ道が涼しい。

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都電荒川線「鬼子母神前駅」

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境内へ続く、青々しい参道

ちょうどこの日は鬼子母神の境内で朝顔市が開かれていた。色とりどりの屋台、子供達の笑い声、木陰の気持ちよさ、お堂の鐘の音……。まるで「日本の夏が来た!」と告げているよう。このエリアは、地域の文化や自然を「未来遺産」として保護していくイベントや町づくりを推進しており、町全体が生き生きしていたのが印象的。灼熱の太陽の下でお参りし、御朱印をいただくと「あぁ~銭湯に行きたい!」という気分で、いざ「高砂湯」へ向かう。都電(という響きが、なんとも落ち着く)の踏切を渡り、池袋を背にして歩くこと5分。

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境内では毎年恒例の「朝顔市」が開かれていた

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安産・子育(こやす)の神様として知られる鬼子母神堂

ガラガラーッとシャッターを開け、開店前の涼しい店内へ案内してくださったのは、3代目店主の間地(まち)一雄さん、御年66歳。「うちは至って平凡な銭湯だよ」と朗らかに話す。小さい頃から釜に薪をくべる手伝いをしていたことを、かすかに記憶しているという大ベテランだ。

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石川県出身の一雄さんの祖父が、港区大門にあった銭湯を経て、昭和26(1951)年にこの地を新天地として選んだ。昭和56(1981)年にビル型銭湯へ建て替え、平成8(1996)年に中普請を行い、この時に燃料をガスに切り替えた。

大正生まれのお母様が今も現役で、夕方のフロントを切り盛りされている。お母様の楽しみである銭湯の営業を末永く続けるには無理は禁物と、営業時間は17時~24時と短めで、休みも銭湯では珍しく週休二日制を取り入れている。今話題の、働き方改革の先駆者!?

男湯の浴室には箱根の芦ノ湖と富士山、女湯には満開の桜と富士山の大きな写真を元にした背景画がそれぞれ飾られている。これは以前ケガにより長期休業せざるを得なかったことがあり、「ただ休んでいるのはもったいない、何かできることはないか」と考えた際に発案したもの。休業というピンチを改装のチャンスにした結果、写真風の背景画が生まれ、お客さんに喜ばれたそうだ。

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浴室を飾る、写真を元にした背景画

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白とピンクの組み合わせが映える

改装の際のタイル選びでは、当時出たばかりの汚れが目立たないグレータイルを検討したものの、暗いのがネックとなり、結局選んだのが白とピンクを基調としたタイル。当然のことながら汚れが目立ちやすく、掃除には気を使っている。薬湯のお湯は40℃、座風呂とバイブラ深風呂は中で繋がっていて42℃とほどよい湯加減。お年寄りが長くつかっていられるようにという、ご主人の心遣いだ。

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お湯は、ぬる目でちょうどいい

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汚れが目立つ白タイルは掃除が大変

高砂湯は脱衣場も浴室も天井が高く、窓からは光がふんだんに差し込む。昼から夕暮れへと移ろいゆく光の変化を銭湯で感じるのは格別だが、17時開店の高砂湯でその採光性の良さを楽しめるのは、陽が長い夏場だけだ。

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高窓から光が差し込む浴室

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ロッカーは「新築当時からの古株」

脱衣場には開業当時に商店街の方々からもらった温度計、廃業した銭湯から譲り受けたお釜型ドライヤーなど筆者が愛する「昭和遺産」の数々がある。それらの由来を教えてもらっているうちに、ご主人がまるで銭湯業界の生き字引のように思えてきて、取材が進むにつれ話に惹きこまれていた。

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「隠れ昭和グッズ」として見つけてみて欲しい温度計

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女湯には、お釜型ドライヤーやレトロな体重計もある

お客さんは近所の常連さんをはじめ、週末は近所だけでなく区外から若い家族連れが電動自転車でやってくることも多いという。湯につかってみれば、常連さんの会話や笑い声がBGMのように感じられ、普段の疲れを癒してくれること請け合いだ。昭和・平成、そして来年は新元号と、時代は移り変わっていくが、地域コミュニティの中で若い世代にも長く愛されていくことを願うばかりだ。

筆者のような若手の銭湯ファンにとっても、「昭和を切り取った」かのような銭湯の姿を覗くことができるのが高砂湯の魅力だ。

(写真・文:銭湯ライター 北村麻紗実


【DATA】
高砂湯(豊島区|雑司が谷駅)
●銭湯お遍路番号:豊島区 40番
●住所:豊島区雑司が谷1-5-3
●TEL:03-3981-2374
●営業時間:17~24時
●定休日:水曜、金曜
●交通:副都心線「雑司が谷」駅下車、徒歩8分
●ホームページ:http://www.toshima1010.org/sentozyoho/473.html
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やさしい木の質感を感じる脱衣場

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脱衣場の天井が高く、全体が明るい

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筆者のツボな、レトロポップな看板

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つまりは、銭湯はこういう場所なのだ