筆者は、以前から人形町の世界湯がお気に入りだ。

東京の銭湯好きの間では「熱湯(あつゆ)のレトロ銭湯」として有名であるが、実は「熱湯」以外の魅力もたくさんある。総じて言えることは、「気持ちいいレトロ銭湯」であること。今回は「熱湯」だけではない、世界湯のありあまる魅力を紐解きたい。

左右の入り口にそれぞれ「男湯」「女湯」と書かれた、懐かしい磨りガラスの文字を確認。早速入ってみよう。

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<魅力1:こだわりの清潔さ/気持ちのいい、レトロとピカピカの融合>

世界湯の魅力の第一は、芸術の領域に近いピッカピカの清潔さ。これまでの入浴時もその恩恵に預かってきたけれど、開店前の床面・壁面のタイルや鏡の眩しさは、まさに息を飲むもの。思わず、床から見上げるような位置でシャッターを切ってしまった。

店主の油本さんは、タイル等の修繕が上手と評判で、他の浴場の修繕を手伝うこともあるそう。確かに修繕した部分のタイルは、周囲との違いを感じさせない美しさ。「磨く・直す」のサイクルがあるからこそ、こんなにも気持ちいい空間があるのだと、納得の美しさである。

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眩しいほど白い床タイル

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鏡とカラン上のタイルも美しい

<魅力2:迫力のペンキ絵/近々ワイド壁面を活かして刷新!>

現在の世界湯の壁面は、中島盛夫絵師による「立山連峰(男湯)」と「富士山(女湯)」が描かれている。立山連峰の横には、町田忍さんが描いた当時開通したばかりの北陸新幹線も。

男湯・女湯、いずれからも2つの頂(いただき)を容易に眺めることができるのは、浴室が大きな世界湯さんならではの、ペンキ絵の楽しみ方かもしれない。

世界湯の女湯では、例えば次のようにペンキ絵を堪能できる。

まずは浴室入り口の端から、2つの頂を眺める(女湯からは、立山連峰の険しさと同時に繊細な峰がとても美しい)。

そして、ワイドな浴槽からペンキ絵を仰ぎ見る(女湯からは、富士山の迫る様な裾野が圧巻である)。惜しげもなく見える景色に、浴槽での至福感はより高まる。

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女湯から望むペンキ絵。裾野の広がりを感じる大胆な富士山

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男湯から望むペンキ絵。立山連峰の先に女湯の富士山が見える

ちなみにこのペンキ絵は、もうじき描き替えが予定されている。

この描き替えには、大きな決断が必要だったという。というのも、男湯に描かれている立山連峰は、油本さんの尊敬するお父様が富山県のご出身で、その故郷への思い入れは並々ならぬものがあったからだ。しかし壁面が傷んできたこともあり、下地から綺麗にして描き替えることを決めた。下地から生まれ変わる壁面は、これまでとはまた違った贅沢な時間を演出してくれるであろう。再びワイドな壁面に期待だ。

 

<魅力3:熱湯/適温を注視、でも変えない信念>

評判の「熱湯」は、創業時から変わらない。お湯の沸かし方は変われども、貫くべきものとして引き継いだものだ。温度は大体44~45℃である。

とは言っても、ぬるめの温度がブームになった際は「ちょっとは、ジレンマを感じました」と苦笑する油本さん。「本当に身体によい入浴は何か?」と考えることもあったそう。けれども常連さんの要望を聞くと、「今の温度が適温」という答えばかり。やはり世界湯らしさは、世界湯を愛する人たちによって守られてきたようだ。それと同時に、油本さんの「温度」に対する並々ならぬ思いを感じた。

そんな温度にこだわる浴槽は、長方形・正方形の2つで構成されている。正方形の浴槽内は1段、長方形の浴槽内には2段の腰掛けがあり、この段差を上手に活かして半身浴する人が多い。それに、段差があれば熱めのお湯も徐々に身体を慣らして入浴することができる。シンプルな様で、実は機能的なところも魅力である。

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浴槽は正方形(奥)と長方形の2つ

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湯船の中にある腰掛けを利用して、徐々に熱湯に慣らす

 

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正方形の浴槽は、バイブラが心地よく人気

 

<魅力4:世界湯を日々進化させる店主・油本さん/まだまだ良くしたい所は山ほど!>

冒頭より何度も店主の油本さんのことを書いてきたが、世界湯の魅力は油本さんのこだわりと想いから発せられていると筆者は感じる。その油本さんは2代目を継いで、13年程になるが、今も世界湯を日々進化させている。

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世界湯2代目店主・油本さん

まず世界湯の日々の進化と言えば、外壁周りに所狭しと並べられた植物の鉢だ。毎日、油本さんが手入れし、綺麗な状態に保たれている。もちろん季節によって鉢の位置を替え、訪れる人へ最適なお出迎えを演出。とても気持ち良い景色だ(筆者の持論「植物が入口にある銭湯は良い銭湯しかない」が、まさに証明されている)。

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世界湯の外壁まわりには、植物の鉢が所狭しと並ぶ

次の進化ポイントは、例えば下足箱。少し板が傷んでくると、地道に貼り替えを行っている。「昔は徹夜でやったんだけどね」と笑う油本さん。本当に手入れが、世界湯がお好きなのだと感じる。

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おおむね板の貼り替えが済んだ、男湯の下足箱

 

浴室の二重窓も進化したポイントだ。冬場の浴室が寒いとの声に応え、昨年二重窓に刷新した。

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二重窓で秋冬も、より快適な浴室

そして、今後の進化目標は、敷地内の庭園。広く贅沢に構えた溶岩や植栽の景色は圧巻。かつてはコインランドリーにする案もあったが、湯上がりの景色としてこだわり続けてきた場所だ。この庭を油本さんは簡易的にライトアップしたいと考えている。「せっかく綺麗なのでね。お客さんが夜も観たいって」。お客様の声を大切にする油本さんの、世界湯をバージョンアップする日々は終わらない。

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美しい眺めの、昼間の庭園

世界湯のお湯や内観は全て、説明抜きでも絵になるものだ。けれども浴場内の1つ1つに店主の熱い想いが込められていて、それを知るとより至福の時間になりそうだ。まだ未体験の方も、何度目かの方も、ぜひ改めて訪問してみて欲しい。

(写真・文:銭湯ライター 銭湯OLやすこ


【DATA】
世界湯(中央区|人形町駅)
●銭湯お遍路番号:中央区 7番
●住所:中央区日本橋人形町2-17-2
●TEL:03-3666-7663
●営業時間:15~23時半
●定休日:月曜
●交通:東京メトロ 日比谷線「人形町」A1番出口から徒歩4分
都営地下鉄 浅草線 「人形町」A3番出口から徒歩10分
東京メトロ半蔵門線「水天宮前」7番出口から徒歩4分

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