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 今年10月に公開以来、話題を呼んでいる銭湯プロモーションビデオ『THE ♨ SENTO』(制作:銭湯もりあげた〜い)。そのビデオに流れるリズミカルなテーマソング『銭湯せんとうセントーの歌』を歌うのはシンガーソングライターの北脇貴士さん。この歌が誕生したきっかけは、当インタビューにも登場してくれた毒蝮三太夫さんのラジオ番組だったとか。「以前はそれほど銭湯ファンでもなかった」という北脇貴士さんが、どんな経緯でこの歌を作ることになったのか、お話を伺いました。

■毒蝮三太夫さんとの出会いが、銭湯との縁

 今年の10月に公開された銭湯プロモーションビデオ(以下、銭湯PV)のテーマソング『銭湯せんとうセントーの歌』(以下、『銭湯の歌』)は、陽気なリズムで覚えやすい、とおかげさまで好評です。サビの「銭湯銭湯銭湯セントー」の部分が、なんだか「サカナサカナサカナ♪」に似ていて、耳に残るってよくいわれますね(笑)。

 そもそも銭湯に関係する仕事をするようになったのは、2014年末に毒蝮三太夫さんのラジオ番組「ミュージックプレゼント」の中継で、この玉の湯さんに来たのがきっかけなんです。ここで漫談家の風呂わく三さんや、玉の湯のご主人に出会った。わく三さんは、足立区の銭湯で開店前に行っているイベント「ふれあい遊湯う(ゆうゆう)」のプロデュースも行っているんですが、僕の演奏を見て、「ふれあい遊湯う」に参加しませんか、と誘ってくださった。でも、最初はあまりピンと来なかったので、返事を保留していたんです。

 そんなときにおもしろい出会いがありました。私は無類の相撲好きで、力士や元力士に話を聞くラジオ番組を持っているんですが、その番組に串カツ屋を営みながら占い師もやっている元力士がいまして(笑)、私の運命を占ってもらったんですね。

 そしたら、「2015年は大殺界に陥る。すべての運に見放されますよ」なんていわれて。そりゃ困る、どうしたらいいんですか? と尋ねたら「社会奉仕とかボランティアに参加することですね」と。

 それで、社会奉仕かぁ、ボランティアかぁ、やったことないなあ、どうしよう……。なんて思っていたら、なんとその日に、玉の湯のご主人からメールが届きました。「“ふれあい遊湯う”は、社会奉仕なのでお金にはなりませんが、ぜひやってもらえませんか」と。いやあ、まるで占い師とご主人がグルになっているんじゃないかと思うようなタイミングですよね(笑)。それで今年の2月から「ふれあい遊湯う」に参加させてもらうことになったんです。

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■銭湯ソングのモチーフは「カレンダーガール」

「ふれあい遊湯う」に参加するうちに、わく三さんから「銭湯に行きたくなるような歌、銭湯に来た子ども達にマナーやしつけになるような歌を作ってもらえませんか」と注文を受けました。私はラジオ番組へゲストで出てくれた力士達のテーマソングを、頼まれてもないのに300曲ぐらい作ってきた男ですから(笑)、もちろん引き受けました。

 それで、どんな歌がいいのかなと考えたときに浮かんだのが、1960年代に流行ったニール・セダカの「カレンダーガール」。1月から12月まで順番に歌うような曲がいいんじゃないかなと。それをモチーフにして、クレイジーキャッツさんや、植木等さんが好きなので、コミカルな要素も付け加えて。会社員、学生、社長、夫婦、睡眠時間の足りない人、とにかくみんな風呂に行こうよ。月曜から日曜までとにかく毎日銭湯に行って、心身ともにリフレッシュしましょう、というような歌詞を考えました。それで出来上がったのが『銭湯せんとうセントーの歌』です。

 それを風呂さんが代表を務める「銭湯もりあげた〜い」の方たちに聞いてもらったら、銭湯PVを作るから、ぜひ使わせてほしい、と。それでテーマソングになったんです。

 銭湯PVは制作費ゼロ、スタッフ3人から始まったんですが、協力者を募るうちに一般の人だけでなく、女優、マジシャン、プロレスラー、芸人まで、老若男女いろいろな人が撮影に参加してくれて、延べ300人にも達しました。東京だけでなく私の生まれ故郷の石川県でも撮影しています。たくさんの人に見てもらって、銭湯の存在をPRしていきたいですね。Youtubeにアップされているので、ぜひ見てください。

 来年は『銭湯の歌』を披露するライブを定期的に行う予定です。毎日の生活で疲れたなと思うときがあったら、この歌を思い出して銭湯に足を運んでくれたらうれしいですね。

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インタビュー中にミニライブが行われた

■「ゴムパッチン」のホープ師匠と毎日銭湯通い

 私は元々そんなに銭湯大好きっていうわけでもなかったんです(笑)。学生時代は風呂なしアパートで銭湯に通っていましたけど、まあ必需品ですからね。

 それが2011年に「ゴムパッチン」で有名な、お笑いコンビ「ゆーとぴあ」のホープ師匠とコンビを組むようになってから、2年間ほぼ毎日一緒に銭湯に通うことになりました。

 というのも、ホープ師匠は「コンビはただ単に打ち合わせして稽古するだけじゃなくて、一緒に生活しないとダメ」という考え方。それに無類の銭湯好きなんです。それで毎日「銭湯いこ、銭湯いこ」って誘われる。それで最初は誘われるから行くという消極的な感じだったんですが、毎日行っているうちに段々好きになってきた(笑)。ホープ師匠が病気をされるまでの2年間、毎日銭湯を通う生活を送っていました。

 ちなみにホープ師匠は、コメディアンの中村ゆうじさんと一緒に銭湯PVにも出演してもらっているので、探してみてください。

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ホープ師匠と北脇さんのコラボCD『ジタバタするのが人生』

■銭湯では人間ウオッチングも楽しみ

 個人的には風呂はサウナがある銭湯がいいですね。サウナ、水風呂、サウナ、水風呂と繰り返し入るのが好きなんです。電気風呂もお気に入りです。ヒザが痛いときに電気風呂につかるとすごく楽になる。もちろん広い湯船につかるのも好きなんですけど。

 銭湯がいいのは、人間ウオッチングも楽しめるところです。いろいろな人がいますからね。自分のテリトリー内に泡が飛んでくると、すぐに流そうとする人とか。まるでプールの監視員のような気の張り方ですよね(笑)。あとはその銭湯のしきたりを知らない一見さんが、主みたいな常連さんの席に座ってしまって、常連さんが立腹したり。そういった暗黙のルールだとか、銭湯は社会勉強になりますよね(笑)。

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■コントもできるシンガーソングライター!?

 ホープ師匠とコンビを組んで、北海道の温泉に2カ月間住み込みでコントしに行ったりしましたけど、本業はもちろんシンガーソングライターです。

 元々バンドをやっていたんですが、20代も中盤になるとみんなミュージシャンになる夢を諦める。それでドラムの自分だけ残されてしまって、仕方ないからギターを弾き始めました。

 歌手になりたくて、いろいろなレコード会社のオーディションを受けたんですが、「歌唱力やギターのレベルに難がある」ということで落ちまくりました。でも、一社だけ引っかかった。「君は歌はダメだけど喋りがおもしろい」っていわれて(笑)。

 それで、インターネットラジオの番組を持たせてもらいました。私は特撮ヒーロー、歌謡曲、相撲が好きなんで、その3本で何かネタをやってくれと。マイナーな特撮ヒーローを取り上げるんですけど、誰もわからない(笑)。その番組で力士のテーマソングを作るというコーナーがあって、それをFM西東京の方が聞いていて「特撮ヒーローと歌謡曲はいらないから、相撲だけの番組をやってくれ」と依頼されました。それで始まったのが、今もパーソナリティを務める「北脇貴士の大相撲甚句」。今年の10月で10年目を迎えた長寿番組です。

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■毎週力士の歌を作り続けて10年目

 相撲は子どもの頃から好きなんです。出身地の石川県は、銭湯の経営者が多いことで知られていますが、相撲もとても盛んなんですね。昔は輪島、最近では遠藤など、有名な力士もたくさん出ています。子ども達も半強制的にまわしをつけて相撲をやらされる(笑)。学校には必ず土俵と相撲部があって、私も高校時代は相撲部に入っていました。そんなこともあって、昔から相撲の大ファンですが、まさか仕事になるとは思いませんでした。

 番組では現役力士や元力士をゲストに迎え、相撲について語っています。毎回テーマソングを作って披露するコーナーでは、これまでに300曲ぐらい作りました。大変? いやパターンは5つぐらいしかないので、そんなに大変でもないです(笑)。歌い続けているうちに、力士の方から断髪式で歌ってくれとか、ちゃんこ屋さんがテーマソング作ってほしい、なんて依頼ももらえるようになりました。

●「ふれあい遊湯う」で、足立区の銭湯めぐり

「ふれあい遊湯う」では、銭湯の開店前にお年寄りに生演奏を聴いて楽しんでもらっています。足立区のいろいろな銭湯を月1回のペースで回っていると、お寺みたいな銭湯や近代的なビルの銭湯など、いろいろあっておもしろいですね。脱衣場が近くのマンションから丸見えだとか(笑)。

 演奏するのは、相手がお年寄りだから「銭湯の歌」をはじめ、相撲甚句、民謡などです。いろいろな銭湯を回りますが、毎回来てくれるお客さんもいる。占いの後押しがあったとはいえ、いい演奏の機会を提供してもらったなと思います。

■銭湯の応援ソング、600軒分作りましょう!?

「銭湯の歌」は銭湯を盛り上げるのが目的なので、月曜から日曜まで銭湯に通おうという歌詞ですけど、もっとリアリティのある歌も作りたいですね。「それほど好きじゃなかった銭湯が、通ううちに好きになった〜♪」みたいな、自分の実体験を反映したような歌。「神田川」みたいな哀愁の漂うメロディーと組み合わせたらどうかな、なんて思ってるんですけど。

 力士の歌を300曲も作ってきた経験を活かして、個々の銭湯のテーマソングなんかも作れますよ。「あそこに行けば、あのペンキ絵に会える。店主は昔かたぎの江戸っ子で、水入れたら怒る、かかり湯せぇ〜」とか、店の特徴を織り込んで。今までも頼まれもしないのに勝手にたくさんの歌を作ってきたんで、もし頼まれたらそれはいいものを作りますよ。今、東京の銭湯は600軒ぐらいですか? よし、依頼を受けたら張り切って作ります(笑)

(写真:望月ロウ 文:タナカユウジ)

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ライブには銭湯を愛する謎のヒーロー『セイント・セントー』も参加


【プロフィール】

北脇貴士さん 石川県出身のシンガーソングライター。「角界の吟遊詩人」の異名を持つ大相撲ファンで、力士や元力士に話を聞く「大相撲甚句」(FM西東京・毎週日曜深夜12時)のパーソナリティを務める。「石川県観光特使」としても活躍中。

ブログ:『北脇貴士のブログ』


【取材地DATA】

玉の湯(足立区)

●銭湯お遍路番号:足立区 23番

●住所:足立区綾瀬2-37-4

●TEL:03-3602-2430

●営業時間:14〜23時

●定休日:金曜

●交通:東京メトロ千代田線「綾瀬」駅下車、東口徒歩6分

●ホームページ:http://adachi1010.tokyo/member/tamanoyu/

東京銭湯マップはこちら

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左から『セイント・セントー』、「銭湯もりあげた〜い」の荒木久美子さん、玉の湯のご主人堀田晃一さん、北脇さん