2015年より東京都浴場組合のホームページで連載を開始した銭湯マンガが、2018年11月ついに「東京銭湯パラダイス」として単行本化。3年にわたって銭湯めぐりを続けてきた、著者のさくらいまさんに銭湯の魅力や作画の苦労について話をうかがいました。

■きっかけは居酒屋での出会い

初のコミックスなのでうれしいです。表紙は、私があまりにもアイドルの「でんぱ組.inc」が好きだったので、担当さんの提案でメンバーのお二人に銭湯前で撮影してもらった写真になりました。本を出す、好きな人と仕事をしたい、という夢が2つ同時に叶いました。

銭湯レポート漫画を描き始めたきっかけは、当時住んでいた高円寺(杉並区)で編集者さんに出会ったことです。居酒屋の女将さんから「絵が描けて、一人で行動出来て、お酒が飲める女性を探している」と聞いて、「それ私のことだ。できます!」と。そこから話がとんとん拍子に進みました。

絵を描くのが好きで、大学も芸術学部。イラストレーターなので4コマ漫画はやっていたんですが、ストーリー漫画は初めてです。その後、4年前(2015年)から東京都浴場組合のホームページで、毎月第4金曜に「東京銭湯物語」で公開していて、2018年11月で43話になりました。

この本を出すにあたっては、13話分をピックアップするのが大変でした。描いた順に入れようと思っていたんですが、休業していたり、リニューアルして変わった銭湯もあるので。サウナに初めて入った回と水風呂に初めて入った回は外せないとか、地域が偏らないようにとか、いろいろ考えて厳選しました。

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連載第1回目は「表参道 清水湯」へ

■銭湯のイメージが変わった!

銭湯は子どもの頃に行ったきりで、大人になってから行った記憶がほとんどなかったんですが、これをきっかけに行き始めました。

1話目の南青山・清水湯さんは、私が大人になって初めて入った銭湯。銭湯のイメージがガラッと変わりました。それまでは、ちょっとさびれていて、若い人が行くようなところではないとか、お風呂がない人が仕方なく行くところとか、お年寄りの常連さんばかりで入りにくいのかな、と思っていました。

行ってみたら全くそんなことがなくて、なんで今まで行かなかったんだろうと思ったぐらい。客層も若かったですし。疲れの取れ方も気分的にも、家のお風呂とは違って、本当に大きいお風呂はすごいなと思います。

それに銭湯の後は、風呂上がりのビールがすごくおいしいんですよ。サバンナの高橋さんも、「お風呂上がりのビールとご飯を楽しむためのちょっと高い調味料を買った、と思って銭湯に行って欲しい」と話していました。

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湯上がりの一杯がたまらない

■漫画はいつも銭湯初心者の気持ちで

プライベートでは近所の銭湯に通う以外は、なるべく新しいところは開拓しないようにしています。行った銭湯が、次の取材先になるといけないので。「初めて」を「初めて」として漫画に描きたいんです。1回行った銭湯に初めての体で入るという気持ちの嘘が付けないんです。

読んでくれた方が「銭湯に行ったことがないけど行ってみたい」と思ってもらえるように、銭湯玄人が描いたような漫画でなくて、まだ入り慣れていないけれど行ってみたら楽しかった、というのを伝えられるようなものを目指しています。エピソードは創作と実話を織り交ぜています。

男女問わず銭湯に行って欲しいなと思って描いているんですけど、女性の目線にはなります。混んでいる時はドライヤーを使う人の迷惑になるので、コンパクトミラーでお化粧するところとか。化粧直しはどうやってするんだろうというのは、みんな気にするところだと思うんですよね。ロッカーの扉の裏に鏡が付いていたら、便利かなぁと思います。

取材は開店30分後ぐらいに行くことが多いです。第1弾のお客さんたちが体を洗い終わってそろそろ出よう、という頃を狙っています。丁度、脱衣場で話しているのを聞けるタイミング。漫画のネタになるので、すごく聞き耳を立てています。家族の話からご飯のおかずの話までいろいろで、面白いですね。

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思わぬ出会いも。「麻布黒美水温泉 竹の湯」

■恐れ多い壁画の再現

漫画で苦労するのは、建物や壁画が立派なのを、うまく描けるかなということ。どうしても写真が必要な場合は、開店前に撮らせていただくこともあります。写真がない場合でも最近はインドアビューがあるので、それを見ながら描けるので、本当に助かっています。

壁画は富士山ひとつ取っても、モノクロで表現するのが大変です。それに、丸山絵師の富士山を私が描き直すことになるのが恐れ多いな、と。モザイク画やタイル絵は、どうやって描けばいいんだ、となりますね。銭湯の壁画はすごくかっこよくて、ぜひ見て欲しい部分なので力が入るんですけど、難しいです。本物を見たいな、と思ってもらえるように頑張っています。

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複雑な背景画は一苦労。「富士見湯(昭島市)」

■銭湯のあたたかさは受付の人のあたたかさ

13軒全部の銭湯さんに本を持って行って、その場でサインを入れさせていただいたんですけど、どこもフロントの方が温かく迎えてくださって「すごい、本になったんだ、ありがとう」と言ってくださって。銭湯のあたたかさって、受付の方のあたたかかさも含まれているんだな、大事だなと改めて思いました。

3日で全部回ったので、足が筋肉痛になっちゃったんですけど、フロントの方と話しただけで、お風呂に入った時の3分の1ぐらいの効果はあったんじゃないかと思うぐらい温かくて。編集さんに頼んで郵送することも出来たんですけど、どうしても自分で回りたかったので、行って良かったと思っています。

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昔ながらの熱いお湯にも挑戦

■友達と行ってみたい

お風呂屋さんは、当たり前のように銭湯に来る人の間に身を置いていると思うので、銭湯に行ったことのない人の話を聞く機会があったら、一歩引いて見られていいんじゃないかなと思います。

周りに銭湯に行っている人は4~5人いるんです。サウナのイベントでたまたま知り合いに会ったので、「飲みに行きましょう」と誘ったら、「そんなことより、銭湯に行きましょう」と、先に誘われてしまいました。取材は今まで全部1人なので、友達と2人で行く回を描いてみたいですね。

漫画の最後のコマに必ず「カレさん」という同居人が出てくるんですけど、最終的にその人を銭湯に連れ出すことができればいいなと。私がこんなに銭湯の良さを伝えているのに、「家風呂で十分。銭湯の何がいいの?」と言われてしまって、誘っても来ないんですよ。いつかきっと!と思っています。 (全国浴場新聞 2018年12月号より)

※さくらいまさんの銭湯漫画は、東京銭湯にて、毎月第4金曜日に更新中

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『東京銭湯パラダイス』 定価:1000円+税 発行:小学館