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 江戸時代の遊郭から始まり、今は日本一のソープランド街としてその名を知られる吉原。艶やかな歴史を持つこの町から生まれた土産物が、今じわじわと話題を呼び始めている。今回のインタビューは吉原生まれ、吉原育ちのデザイナー岡野弥生さんに、ブランド「新吉原」を立ち上げた経緯や今後の展開について話を伺った。

■吉原LOVE! ブランド立ち上げのきっかけは「地元愛」

 私は、生まれも育ちも吉原なんです。ええ、ソープランドがたくさんあるので有名な(笑)。ソープ街と隣り合わせの町で育ったんですけど、まあちょっと変わった町なんだな、っていうのは子供のころからなんとなく思ってました。

 ソープ街のど真ん中に住んでいる友達もいました。その子、呼び込みのお兄さんと仲がよくて「のどかわいたからお水ちょうだい」なんて、ソープランドに入っていく(笑)。小さい頃は、そんな風景が普通にありました。

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 でも今、吉原は年々さびれていくような気がするんですよね。ソープランドのネオンも減っているような。吉原は、住所でいうと台東区千束3丁目と4丁目。「吉原に遊びに行った」とは公言しづらいようですし(笑)、吉原という地名自体がだんだんマイナー化して知らない人も増えている。

 でも、江戸時代の遊郭から始まってソープランドにいたるまでの、吉原の長い歴史が忘れ去られつつあるのは、自分が生まれ育った町が忘れられていくようでちょっと嫌だな、と。

 それで、吉原をイメージしたデザインの土産物なら、少しは吉原のことを知ってもらうきっかけになるかもしれないと思って、「新吉原」というブランドを作ることにしたんです。地元愛がブランド立ち上げのきっかけですね(笑)。

「吉原」じゃなくて「新吉原」にした理由ですか? 江戸時代、元々の吉原は今の日本橋人形町にあったのが、今の場所に移されたんですよ。それで日本橋のほうは「元吉原」、浅草のほうは「新吉原」と呼ばれていたんですね。そんな記憶を呼び起こす意味もあって「新吉原」にしました。

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「新吉原」ブランドの商品

■以前はラグジュアリーな雑誌の編集者

 20代の頃は女性誌の編集者でした。ラグジュアリーな媒体だったんですけど、ちょっと自分には合わないかな、と思って30歳前半で辞めて。

 それからはどうすれば地元をアピールできるかを考えながら、やったことのなかったサービス業にトライしてみようと、ホテルに勤めて、フロント、レストランのホール係、シェフのアシスタントなどをやりました。

 その後は地元にある老舗の糸屋さんに勤めるようになって、その糸屋さんに勤めながらブランドを立ち上げたのが2014年の夏。実はその糸屋さんをやめたのは先月(2016年3月)なんですよ(笑)。「新吉原」の仕事が忙しくなってきたので、少しずつ勤務時間を減らしてもらって、今月から「新吉原」に専念できるようになりました。

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■目を引く「おっぱい」入りのブランドマーク

「新吉原」のブランドマークは、すぐ気付かない人もいるんですけど「おっぱい」が入ってます。友達に頼んでデザインしてもらったんですけど、私はおっぱいを入れてほしいなんて頼んでないんですよ(笑)。でもまあ、吉原を発信するブランドだし、ちょっと艶っぽくてインパクトがあっていいかな、と。

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 ブランドマーク以外の商品デザインは全部自分でやっています。最初に出した商品はフローティングペンでした。中にオイルが入っていて傾けると中のパネルが動くんですけど、懐かしい感じが気に入って、どうしても作ってみたかったんです。

 その他に今出している商品は、団扇、千社札、手ぬぐい、小判型の桶など。なるべく地元の職人さんに作ってもらうようにしています。例えば、団扇は江戸一文字型という珍しい形なんですけど、浅草に店を構える老舗の扇屋「文扇堂」さんに作ってもらったものです。千社札も浅草で代々続く「長尾版画匠」さんに摺ってもらったもの。

 木の桶は作ってもらう店を探すのに苦労しました。丸い形の桶はまだしも、この小判型の桶を作ることができる職人さんはなかなかいない。結局、宮内庁御用達の結桶師「桶栄」さんを探し当てて、コラボすることになりました。これ、サワラでできているんですけど、見た目の割りにすごく軽いんですよ。

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 人気があるのは手ぬぐいですね。遊女が刺青をしているもの、富士山を見ながら湯につかるもの。おもしろいのは、はっぴ型の手ぬぐいですね。広げるとただの手ぬぐいなんですけど、はっぴ型に折りたたんであって、めくると春画が描いてある(笑)。絵柄は購入した人だけが目にできるお楽しみです。これ、私が一つずつ手作業で折りたたんでいるんですよ、はっぴ型に。広げても折り目がついているんで、元に戻せると思います、たぶん(笑)。手ぬぐいを額装したものは、インテリアとしても人気がありますね。

 絵は昔のものをモチーフにして、そこに吉原らしい艶っぽさや遊びの要素を足して描き起こしています。一人でデザインから販売までやっているので、アイテムを増やすのには時間がかかりますね。

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■江戸時代の湯女「勝山」リスペクト

 商品に風呂グッズが多い理由ですか? ソープランドが元々お風呂っていうこともありますけど、江戸初期に活躍した湯女(ゆな)(※)出身の花魁「勝山」が好きなんです。勝山は湯女風呂の超売れっ子で、独自の髪型やファッションなどを生み出すと、江戸の若い女性がこぞって真似するなど、大きな影響を与えました。幕府の取り締まりで湯女風呂が取り潰しにあった後は、吉原に送られて花魁になったんですけど、やっぱり人気が出て最高位の「太夫」まで上り詰めた。そんな人が吉原にいたなんてすごいなと。そんなこともあって、吉原発のブランドなら風呂グッズが合うかなと思って、いろいろ作るようになりました。

 風呂グッズといえば、品川の天神湯のオーナーのご兄弟から連絡をいただいて、コラボ商品も作ったんですよ。遊女が刺青を入れている絵柄の手ぬぐいで、温泉マークを入れた天神湯限定発売のアイテムです。天神湯は黒湯の温泉があるんですけど、本当に真っ黒なんでびっくりしますよ。足を運んだ際は、手ぬぐいもぜひ見てみてください。

(※)湯女:江戸時代初期、風呂屋で垢すりや髪すきなどのサービスを行ったが、次第に飲食や音曲の提供や売春を行うようになった。湯女を置いた風呂屋は湯女風呂といわれ、吉原の存在をおびやかすようになり、明暦3年(1657年)に禁止された。以後、風呂屋では三助と呼ばれる男性が垢すりなどのサービスを行うようになった。

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心中をモチーフにした絵札シリーズ

■下町育ちだけど、熱湯は苦手!

 今も住んでいる吉原周辺は昔ながらの下町なので、銭湯がたくさんあるんですよ。下町の銭湯ってお湯が全体的に熱めなんですが、私苦手なんですよ、熱いお湯。いけませんよね、下町育ちなのに(笑)。ちょっと手を入れてみて熱かったら、そーっと水を入れて、他のお客さんに怒られないかドキドキしたり。この曙湯さんもちょっと熱めですよね。

 台東区以外の銭湯にも友達と連れ立ってあちこち行ってますよ。家の風呂にはない設備、ジェットだとか泡風呂があるとテンション上がります。冬の寒い時期だと、打ち合わせと打ち合わせの間に、銭湯に入って温まったりしたこともありますね。

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■浅草にアトリエ兼ギャラリー「岡野弥生商店」を出店

 最近はおかげさまで、いろいろなメディアで商品を紹介してもらう機会が増えています。WEBショップも見る人は見てくれているんだなと、つくづく思いますね。WEBショップ以外だと浅草地下街のフウライ堂、中目黒にある着物屋さんのKAPUKI、羽田空港のお土産物屋さんKIRI japan design storeに置いてもらっています。4月末からは新宿のBEAMS JAPANでもお取り扱い頂いています。

 この4月からは新吉原に専念できるので、近々浅草にアトリエを兼ねたギャラリーを出店する予定です。2020年にオリンピックがあるので、風俗街の吉原も規制が強化される可能性もささやかれていて、今後ガラリと変わってしまうかもしれない。だから、土地の記憶を伝えるためにも、いろいろな商品を出していきたいですね。

 今考えているのは、吉原のソープランドにちなんで「吉原ソープ」という石けん。ただの石けんなんですけど、シャレがうけるかなと(笑)。手ぬぐいも、もっとバリエーションを増やしていくつもりです。「新吉原」の粋な風呂道具で銭湯に通う人が増えたらうれしいですね(笑)。

(写真:望月ロウ 文:タナカユウジ)

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【プロフィール】

岡野弥生さん 東京都台東区生まれ。出版社に勤務した後、2014年夏「新吉原」を立ち上げ、土産物の企画販売をスタート。2016年5月に岡野弥生商店を浅草にオープン予定。新吉原:http://www.shin-yoshiwara.com/


【取材地DATA】
曙湯(台東区|浅草駅)
●銭湯お遍路番号:台東区24番
●住所:台東区浅草4-17-1
●TEL:03-3873-6750
●営業時間:15〜25時
●定休日:第3金曜
●交通:東京メトロ銀座線「浅草」駅下車、徒歩15分
●ホームページ:–
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昭和24年創業。店内はリニューアルしてジャグジー・座風呂・ボディーバスなどさまざまな設備が揃う。正面を彩る藤の花は、例年4月下旬〜5月初旬に見ごろを迎える。

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