2016/12/16

俺の銭湯

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【著者】川越太郎/1968年、新潟に生まれ東京で育つ。武蔵小山温泉 清水湯の3代目。 かつては閑古鳥が鳴き潰れかかっていた清水湯を、都内屈指の人気銭湯へと生まれ変わらせた銭湯業界注目の若手銭湯経営者。海と妻と3人の子供たちを心から愛する男。空手3段。


主な登場人物
・太郎(主人公)…清水湯3代目
・マユミ…太郎の妻
・紅(くれない)…太郎の長女
・太介(だいすけ)…太郎の長男
・リカ…太郎の次女
・オヤジ…太郎の父
・オフクロ…太郎の母


「お義父さん息してない!」

 蒼白な顔をしたマユミが、瞳を涙で一杯にして階段を駆け上がってきた。なぜか一瞬、その顔に浮かぶ白さが綺麗だと思った。マユミは、さっきまで二階にオフクロと一緒に居たはずだった。

 オヤジはたまたま大学病院の医師のすすめで、自宅療養として帰ってきていた。体を拭き、着替えを手伝い終わって、オヤジが寝てからマユミはオフクロとコーヒーを飲んでいた。居間からは寝室のオヤジが寝ているのが見えた。

 細い湯気とともにコーヒーの香りが揺らいでいた。南窓からはまだ朝日に近い太陽の色が、その湯気を照らしていた。オフクロがオヤジの若い頃の話を始めた。
「大学時代は、おとうさん本当にいい男でモテモテだったのよ」
「太郎くんもモテたって、言ってましたよ」
「太郎なんか目じゃないわよ。勉強も運動もできて、とにかくカッコよくてみんなお父さんのこと好きだったんだから」

 いつまでもオフクロはオヤジを愛しているようだ。マユミは絶えずオヤジを気にかけながらオフクロと雑談していた。
「ひゅーひゅー」と微かな寝息が寝室から聞こえていた。

 オフクロもマユミと雑談を楽しみながら、絶えずオヤジを気にかけているようだった。コーヒーを半分ほど飲んだ頃、話していたオフクロの言葉が突然止まった。そしてマユミの顔を見ながら何か訴えているような顔つきに変わった。その刹那、座っていた椅子が後ろに倒れるような勢いで立ち上がった。マユミは何ごとかとオフクロを見上げた。

 オフクロはオヤジのもとへ駆け出していた。その様子を見てマユミもはっとした。さっきまで聞こえていた「ひゅーひゅー」という寝息が聞こえないことに気がついた。マユミの前でオフクロがオヤジの体を揺すっている。そして、呼びかけている。 
「おとうさん、おとうさん」 
オヤジの返事はない。苦しげな寝息も聞こえない。

「あなた!」
 湿りを含む悲しみの声に変わった。

 マユミはその声に我に帰った。「太郎くんを呼んできます!」
 その言葉を残して、階段を駆け上がってきたのだった。

 人の死というのは、その時にはあまり実感のないものだ。特に近しい人になるほど、いるのが当たり前になってくる。それが親なら尚更なのかもしれない。親はいてあたり前。親の有難味もわからずにいるのが当たり前。いるのが当たり前だから、親孝行も後回しが当たり前。だが、しばらくすると少し早目の冬が近づいてきたみたいな、秋霜とともにヒヤッとした冷たい空気を感じずにはいられなくなる。何とも言えない喪失感。寂しさが押し寄せてくる。そんな時だろう。今、そばにいる家族の温かさが心のひだに沁み入り、感謝の思いを新たにするのも……。

 その日は新月だった。空を見上げても月は見えない。真っ暗な夜空は散りばめられた星々が輝いて見えた。

 オヤジの葬儀は定休日の都合で9日後に決まった。遺体は葬儀場の遺体安置所に預けた。真夏を思わす陽気な日が続いていた。

 その間、何の変哲もない日常の銭湯の生活を送っていた。そして、一日たりとも休むことはなかった。毎日、マユミは朝6時に起きて食事を作り、幼稚園のお弁当を作る。俺が子供を幼稚園に登園させ、銭湯の仕込みを済ませ、正午になると店を開けてお客様を迎えた。そして二人で遅くまで風呂の掃除をした。

 オヤジが死んだということも、何故かいつまでも実感が湧いてこなかった。葬儀社との打ち合わせもどこか事務的だった。 それはきっと、オヤジの傍に病気と死がいつでも近くにいたからだと思う。

 俺は、むしろ、やっとオヤジが楽になってよかったと思った。そして、本当なら少しでもオヤジの病気を俺が肩代わりして、軽くすることができたらよかったのにと思った。

 8月8日、桐ケ谷斎場。夕刻、読経が始まった。友人葬を執り行った。生前お世話になった多くの友人、知人、縁ある方々が集まってくれた。ただ感謝の思いしかなかった。祭殿に安置した遺体の前に進んだ。

 棺の小窓を開けた。オヤジの顔が見える。死に化粧を少ししているのがわかる。 
 じっとオヤジの顔を見た。肌は白く、ぽうっと頬に赤みが差し、うっすらと目と口が開いていた。死んだ直後は土気色で黒っぽく見えた。成仏すると、肌は透き通って見えるというが、もしかするとおじいちゃんやおばあちゃんが笑顔で迎えに来てくれたのかも知れない。 

 そしてその顔を見て呟いた。
「ああ、死んだおばあちゃんにそっくりだな」
 おばあちゃんも半眼半口の寝ているような臨終の相だった。
 オヤジの顔を見た参列者の一人一人が「いい顔してるね」と言ってくれた。あんなに生きていることが苦行のように見えたオヤジも、死とともに贖罪をすべて消し去ったような、穏やかで優しげで温かな夢を見ながら寝ているようだった。

 翌日、告別式。読経が終わった。出棺の時、参列者がお別れの言葉をかけてくれた。棺の脇に佇んでそれを見ていた。すすり泣く声がオヤジを囲んだ人々から聞こえてきた。オフクロもマユミも子供たちも泣いている。もうすぐ火葬場の炉に入れられてオヤジがこの世から完全にいなくなってしまう。そんな実感が急激に湧いてくると、今までのオヤジの思い出が頭の中を駆けめぐってきた。そして、それまで枯れていたのかと思うほど乾いた瞳から、堰を切ったように涙が溢れてきた。

 今まさに炉に入ろうとした瞬間、オヤジに向かって大音声で叫んだ。
「おとうさん! ありがとう!」

 涙はいつまでも止まることはなかった。そして、肩を震わせている俺の元に、三人の子供たちが知らないうちに集まってきてくれていた。

 オヤジの葬儀の後、暫くして身だしなみの整った一人の初老の紳士が清水湯を訪ねてきた。 
「稔の息子さん?」

 歳はオヤジと同じくらいに見えた。 
「はい、そうです」と答えると、 
「確か、太郎くんだったよね。先日、大学の懇親会があって、仲間で寄せ書きを書いてきたんだ」 
 そこには、各々の年季の入った特徴のある字体がびっしりと書かれていた。

「川越先輩の話がもっと聞きたかったです」 
「風呂場での踊り練習が懐かしく思い出されます」 
「踊りの練習を想い出します、いろいろとありがとうございました」 
「民研の先輩方が御苦労されたので今我々が集っています。ありがとうございました」 
「風呂屋で懐かしい尺八を吹く姿が目に焼き付いています。残念です」 
「番台、一城の主、博学多識の人」

 中央に大きく明治大学日本民謡研究会OB懇親会とあった。そして、惜別初代部長川越稔とあった。

 ああ、オヤジは俺以上に青春を生きていたんだなと、両手に持ったその寄せ書きの色紙をまじまじと見ながら、希望に燃えて溌剌として前途しかなかった若きオヤジが、その中に閉じ込められているような気がした。

 俺は深く頭を下げた。 
「ありがとうございます。僕の知っているオヤジはすでに病気がちだったんです。いつかオヤジの若い頃の思い出話でも聞かせてもらえませんか?」 
「ああ、いいよ」 
 笑顔で快諾してくれた。 
 そして、ふっと友人を思い出して懐かしむような笑顔で言った。 
「そう、一つ言えることは、あいつは子供ができて本当に変わったんだよ」 
 確か、オヤジも出来ちゃった婚だった。俺が出来て、オフクロと一緒になった。 
「息子である君に言うのも何だけど、あいつは女がほっとかなかったんだ。でも、稔はキレイさっぱり、お母さん1人だけを大切にしてたよ。そして、君をね」 
 何となくわかるような気がする。また、目頭が熱くなってくるのを感じた。

 その後オヤジは病気になっていき、つき合いは自然と疎遠になっていったらしい。
「だけど、君が新しく銭湯を蘇らせたことは、僕たちの間でも話題になってるよ。今日はゆっくり温泉を楽しませてもらうよ。俺たちの大学は絆が強いから、応援するからね。これからも頑張ってね」 
 その紳士は風呂に入って帰っていった。葬儀にも来てくれたが、わざわざ届けてくれたのだった。 

 初七日が過ぎ、子供たちの夏休みも終わろうとしていた頃。 
「パパ! なにしてるの?」 
 長男の太介が覗き込むように、俺の頭上で驚いた顔をしていた。確かに驚かれても仕方がない。今、俺は風呂場のタイルの上に大の字になって仰向けに寝ていた。太介の驚きをよそに、さも当たり前のように言った。 
「ああ、太介か。おいで、一緒に寝てごらん」 
「えー。うんわかった」 
 太介は一瞬躊躇したが、素直に大の字になった。 

 夏休みに入って、営業前の仕込みの時間、真夏の太陽が南窓から燦々と降り注いでいた。一日の日課は必ず朝、ボイラーが自動着火する時刻に、銭湯の施設内を保守点検することだった。昔の清水湯ならば火袋の中から一日が始まった。釜の中の黄金色に輝く炎を見ていると、何故か心にもぽっと火が灯った。きっとその残心なのかもしれない。天井を見上げてから視線を落とすと断熱の壁、電灯、床のタイル、カランやシャワーの金具、目に入るもの全てが何か語りかけてくれるような気がするのだった。実際、これで不具合があればすぐに気がつき、すぐに対処することができた。お客様は裸であり、裸足であるが故、足が触れるところや体が触れるところは細心の気遣いが必要なのだ。未然に事故、故障を防ぐためには不可欠の日課だった。

 目を閉じると思い出すことがある。昔、オヤジがまだ元気だった頃だ。営業前の風呂場。日射しが優しげに射し込んでいた。目に眩く感じる真っ白いタイル。その上にオヤジが大の字で寝ていた。タイルが眩く感じるのは、お客様が少なくて汚れなかったからだ。その時は小学生になりたての冬休みだった気がする。

「おとうさん。何してるの?」 
 怖いもの見たさに恐る恐る聞いてみた。 
「太郎、お前も寝てみろ」 
 するとそれが当然のように言った。 
「え、なんで」 
「風呂の息遣いが聞こえるぞ」 
 オヤジは間髪入れずに言う。 
「風呂のいきづかい?」 
 カランの土手に挟まれた巨人が、手足を広げて寝そべっているようだった。オヤジは、その異様な光景には不釣り合いな優しげな目を俺に向けていた。

 当時、いじめられっ子で小っちゃかった俺は、オヤジの懐に寄り添うように仰向けに寝そべった。その時、ふっと安心感を感じたことを覚えている。そして、つい声を発した。
「あたたかい」
 すると同時にオヤジがかぶせるように言ってきた。
「そうだろ」
 二人は底から湧き上がってくるような銭湯のぬくもりを感じながら寝そべっていた。
「太郎、耳をあててみな」
「耳を?」
 言われるままタイルに耳をあててみた。何かが聞こえる。何かが流れるような音だ。
 そして時折、不規則な不思議な音が聞こえた。
「こうしていると、銭湯が何かを教えてくれるんだよ」
「なにか…を…?」

 オヤジが高い天井を見ながら呟くように言ったのが、遠い記憶の欠片として残っていた。それが何かだったのか覚えていない。でも今の俺にはわかる。きっとそれは「進むべき道を教えてくれる」。そういうことだったのだと思う。

 銭湯に育まれ、守られ、そして銭湯にすべてを捧げた者だけがわかる銭湯の胎動なのかもしれない。その生命の灯ともいえる銭湯の生きようとする拍動、その灯の温かさに呼応するように銭湯と共に生きていく決意を持つ者にしか、その進むべき道ともいえる、また羅針盤ともいえる「心魂」を感じることは出来ないだろう。 そして、もしその羅針盤があるとしたら、それはやはり自分の心の中にあるのかもしれない。

 あの時と同じような優しげな日射しが降り注いでいた。
「パパ。ねえ、パパってば」
 素直に大の字になった太介が呼んでいた。
「ああ、ゴメンゴメン。昔、パパのおとうさんが教えてくれたんだよ」
「太介のおじいちゃんでしょ。なにをおしえてくれたの?」
 太介は純真な目を向けている。 心にある声を聞いてみたい、そんな思いで聞いてみた。
「なにか感じない?」
「……。あたたかい」
 俺はちょっと嬉しくなった。
「そうだろ。じゃ耳をあててみな」
 太介は少し不思議そうな顔をして俺を見た。 そして太介も呟くように言った。
「なにか聞こえる」
 俺は風呂の温かみを感じながらも、何かオヤジから受け取ったものを息子に伝えることができた気がした。

「おじいちゃんが言ってたんだ。風呂の声を聞けって」
 わかったような、わからないような、そんな顔をしていた。俺も一緒になって耳を温もりのあるタイルにあててみた。
 親子で、あの時の光景のように、受け継がれた儀式のように。

 そしてあの当時、オヤジには言えなかったが、聞こえた音は少し哀しげだった。だが、今、聞こえる音は、どこか嬉々として軽やかな音に聞こえる。

 5年後。
「オフクロ、そろそろオヤジの骨壺、お墓に安置した方がいいんじゃね?」
 オフクロは首を横に振った。
「まだ、もう少しいいじゃない」
 ここまで人生の伴侶に思われ続けるのも、旦那冥利に尽きるかもしれない。新しい清水湯での銭湯生活もだいぶ慣れてきた。最初は寝不足で眠くてたまらなかった。だが、今では睡眠3時間でも余裕だった。

 いつまでもオヤジの骨が家にあるのも何だか気持ち悪りいなぁ、と思っていた俺は、一つ提案してみた。
「オヤジの好きな海と富士山が見える霊園に、オヤジを安置しようと思うんだけど……」
 実は大田区に先祖伝来の墓があった。大田区馬込の文士村といわれる一角で、おじいちゃんの生まれ育ったところだった。

 そこに古刹があった。武蔵小山から馬込は車でも10分だ。墓参りは楽だが、その墓は日当たりが悪く、供養の催促が頻繁で、少し面倒臭くなっていた。元来、はねっかえりの性格の俺は、権威を振りかざす奴が嫌いなのだ。お墓を閉眼供養して、どこか自由な霊園墓地を探していた。

「こないだの休みの日に波乗りに行ったついでに、その霊園へ行って来たんだけど、中々いい処だったよ。少し遠いけど、次の休みの月曜日、見に行こうか?」

 果たして翌週の月曜日、オフクロを連れて横浜横須賀道路を南下した。オヤジは海が好きだった。逗子の材木座海岸や葉山の森戸海岸に連れて行ってくれた。そんな思い出深い海。背面を山に囲まれ、眼前には油照りした海が広がり、江の島の遥か向こうに富士山が霞んで見える。そこは葉山の御用邸を越えて、佐島漁港を山側に行ったところにあった。三浦半島の低い山地の中腹にある、比較的なだらかな台地を整地した霊園墓地だった。高台に位置し見晴らしがよく、眼前に相模湾を望み、遥か西の水平線に富士山が悠然とそびえていた。まだ更地の墓所候補地の前に立ってオフクロに言った。
「どう、眺めいいでしょ。ここだったらオヤジも喜ぶと思うよ。それにいつかオフクロも一緒になるんだから、ここなら一緒に海も眺めながら語りつくせなかった愛を語ることもできるだろ」

 馬鹿野郎、という顔を息子に向けた。だが、すぐに笑って言った。
「ここいいわね。墓石決まったの? いい石にしなさいよ」
 どうやら気に入ったようだ。これで、オヤジの骨壺も安置出来て、やっとのことオヤジも自由になって成仏できそうだ。

「ああ、わかってるよ。多少高くても、家族みんながいつでも来たくなるようないい墓を建てるし、こんな海風を感じる風光明媚な場所を終の住処にできるんだから、最高じゃん。というか、いつか俺も入ることになるんだし」

 遠く海の方を見ているオフクロの後ろ姿は、どこか嬉しそうで少し寂しそうだった。相模湾から吹き寄せる海風はオフクロの髪を揺らしていた。その後ろ姿を見て気がついた。「なんだか白髪が増えたな」
 声には出さなかったが、そんなオフクロの隣には、オヤジがいつもの優しげな顔で見守ってくれているのかもしれなかった。

 心地のいい海風がそよいでいる。そして、涼やかな鈴の音もその風にのって聞こえたような気がした。なだらかな傾斜は山の斜面を切り開いたものだ。どこも日当たりが良くて葉叢(はむら)がそよいでいる、そのところどころに向日葵が咲いていた。
 鳶(とんび)も気持ちよさそうに天を舞っていた。
「やっぱいい処だな。今日にも契約しよう」
 そして、その風にのって、遠くの子供たちの歓声が聞こえてきた。
「パパ—!」
 三人三様の俺を呼ぶ声だ。 広い霊園内で遊んでいた子供たちとマユミが戻って来た。
「ねえ。お昼ごはん、なに食べる?」
「お魚食べに行こうよ!」
「お腹すいた〜」
「よし、佐島漁港の近くの海辺に美味しい海鮮料理店があるから、行こうか」
 きっとお盆以外も、海水浴や趣味の釣り、美味しい海鮮料理を食べに来たついでにもお墓詣りに来れる。俺たちにはピッタリな霊園墓地を見つけることができた。

 これからも、オヤジだったらどうするだろう。そんなことを考えながら風呂場の温もりに答えを求めるだろう。きっと苦しくて、哀しくて、寂しくて、辛い思いを笑顔に変えて、銭湯の灯を守ってきたひいおじいちゃん達、おじいちゃん達、オヤジ達、それら銭湯人の系譜を次代に託すように引き継いでいくのだろう。

 今度、オヤジと会うのはどんな時だろう。たぶん親友になるだろう。そして、きっとその前に殴り合いの喧嘩をするだろう。一度殴り合いの喧嘩をしたほうが大親友になるものだから。過去、現在、未来と三世の生命があるとしたら、またいつかきっと何処かで会うと思う。あれほど深い父子の縁で結ばれていたのだから。

 今日も空は快晴だった。

 天は晴れるか曇るかのどちらかしかない。どちらが勝つか絶え間ない熾烈な戦いを繰り広げている。晴れればその瞬間、虹が天に浮かぶ。

 人も一緒だ。

 日々、中天に太陽が昇ると元気な声が響き渡る。
 オヤジの優しげな笑顔を思い出しながら、オヤジがそうしていたように。人々の笑顔に向かって。

「こんにちは! いらっしゃいませ!」

 そして、俺の心にも虹が浮かんでいた。

— 完 −


「俺の銭湯」は今回で終了です。長い間、ご愛読ありがとうございました。物語の舞台となった「武蔵小山温泉 清水湯」は、毎日温かいお湯を沸かしてお客様をお待ちしております。機会がありましたら、ぜひ一度お立ち寄りください。

武蔵小山温泉 清水湯(品川区|武蔵小山駅)
●銭湯お遍路番号:品川区 4番
●住所:品川区小山3-9-1
●TEL:03-3781-0575
●営業時間:12〜24時(日曜は8〜24時)
●定休日:月曜(祝日の場合は営業)
●交通:東急目黒線「武蔵小山」駅下車、徒歩4分
●ホームページ:http://www.shimizuyu.com/
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