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「半身浴は全身浴より美容や健康にいい」という説があります。たとえば、半身浴にはダイエット効果がある、という話。これが間違いであることはこのコラムの第32回で詳しく説明しました。実験で次のような結果が出た、というのがその根拠でした。

① 半身浴ダイエットは確かに有効ではある。
② ただし、半身浴を継続すると、その基礎代謝を増加させる効果は頭打ちになる。
③ 一度増加した基礎代謝量はその値を維持するのではなく、徐々に下がり始める。

つまり一旦痩せる側に傾くものの、継続するとリバウンドする。平たくいうと、そのような結果が出たということでした。

半身浴か全身浴か、悩ましい限りですが医学的に整理するとこんなふうになるでしょうか。すなわち、入浴には大きく、温熱効果、静水圧効果、浮力効果があることは何度もお話してきましたが、体温を上昇させる温熱効果についていうと、半身浴は体の半分しか湯に浸かっていないため、同じ時間であれば体温の上がり方も、全身浴の約半分です。当然、同じ時間をかけるならば、血流の改善作用も半身浴は全身浴の約半分ほどということになります。

次に静水圧効果は、下肢にたまった血液やリンパ液を体の中心へ押し戻し、むくみを改善させます。下肢のむくみは女性に多い悩みの1つですが、半身浴は湯の深さが全身浴より浅いので、それだけ引き締め効果も弱くなります。湯の深さが半分なら、この静水圧効果も半分ということになります。

浮力効果はどうでしょうか。入浴によって緊張が解けリラックスできるのは、自分の筋肉が自分の体重を支える必要がなくなる浮力のおかげなのですが、半身浴ではみぞおち程度までしか水面下に沈んでいないので、浮力も全身浴の半分程度になります。単純にこう考えると、半身浴は全身浴と比べて入浴の効果がほぼ半分しか得られない、ともいえるでしょう。

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「半身浴にすれば長く入ることができ、その分じっくりと効果が得られる」という説明もありますが、全身浴と同じ作用を得るには、概ね2倍の入浴時間が必要と考えてよいでしょう。では半身浴は同じ時間での効果が全身浴の半分なら、結局全身浴のほうが効率的なのか、というと一概にそうともいえないのです。

なぜかというと、入浴による温熱、静水圧、浮力のいずれの効果も、身体に対する「負荷」、つまり人によってはそれが体に過剰な負担となることがあります。例えば温熱作用を受けやすい乳幼児や高齢者は、全身浴では温熱作用が強過ぎることもあります。また、肩まで浸かると、胸の周りまで水圧を受けて締め付けられるので、呼吸がしにくくなり息苦しく感じる人もいます。

さらに、下半身の血液が上半身に押し戻されるため、心臓の悪い人にとっては負担が大きくなり、これも胸の苦しさの原因になります。こう考えますと、全身浴では負荷が高すぎる場合に体への負担が軽減できる半身浴にはメリットがあるといえるでしょう。

医学的に整理すると以上のようになりますが、半身浴伝説にはデトクス効果があるという話もよく聞きます。かく汗によって体内の毒素が体外に排出され、それによって体内が清浄されて肌も美しくなる、という理屈です。お分かりのように、発汗で毒素排泄効果が期待できるならば、同じ時間湯船に浸かるとすると、全身浴のほうが発汗量は多いのですから、半身浴に限ってデトクス効果があるとは考えられません。さらにいうならば、汗をかけば体内の毒素は排出されるのでしょうか。

「Environment International」という学術誌に掲載された研究報告によれば、汗をかいて毒素を排出するという説は、汗をかいて弾丸を搾り出すというのと同じくらいありえない話なのだ、ということです。そもそも人間が汗をかくのは体温を下げるためであって、老廃物や有毒物質を排出するためではない、毒素排出の役目を負うのは腎臓と肝臓で、汗の成分の大部分は水とミネラルであり、ごくわずかな量だけ数種類の有毒物質も含まれている、というのです。その研究者によれば、「どの程度の量かということは、常に問うべきです。汗を分析すると多くの物質が見つかりますが、化学物質があるからといって必ずしも危険なわけではありません」とのこと。

東京都市大学の早坂信哉教授も、「老廃物の排出ルートは、便が75%、尿が20%、残りの5%が汗や髪の毛などです。つまり、半身浴をして汗をかいてもそのほとんどはただの水分で、老廃物は少ししか出ないということなのです。つまり汗をかくこと自体はデトクスになりませんが、間接的には効果があります。入浴することで体温が上昇し、血流がよくなることでたまった老廃物が流れ出します。さらに皮膚表面にかかる水圧でさらに血の巡りがよくなります。その老廃物が最終的に尿などに溶けて体の外に放出されるわけです。ただし、この効果を狙うにも体をまんべんなく温める全身浴のほうが効果的でしょう」と述べています。

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「Environment International」掲載の研究を率いたパスカル・インベルト氏はカナダ・オタワ大学の運動生理学者で、体脂肪に蓄積する汚染物質の研究をしている専門家です。この汚染物質は「残留性有機汚染物質」と呼ばれ、農薬、難燃剤、そして現在は禁止されているもののまだ環境中に残っているポリ塩化ビフェニル(PCB)などがあり、食品や環境中に存在する「毒」と一般に考えられているそうです。これらの物質は脂肪に引き寄せられる性質があるため、大部分が水でできている汗には溶けにくく、普通の人が1日45分間の激しい運動を行ったとしても、その発汗量はせいぜい2リットルほど。その汗の中の汚染物質は0.1ナノグラム以下しか含まれていなかったそうです。「普段の食生活で体内に取り込む汚染物質のうち、汗で出る量は0.02%に過ぎません」と、インベルト氏は述べています。

こんな研究もあります。名古屋大学で行われた2004年の研究ですが、40℃のお風呂に全身浴で10分入浴すると2.8kcal、半身浴で10分だと1.6kcalの消費カロリーという結果が出ました。キャラメル1粒が約17kcal。半身浴を100分しても、キャラメル1粒分すらカロリー消費効果がないということなのです。心臓に問題のないあなた、まだ半身浴を続けますか?


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