th_1


入浴の医学的な3大作用、すなわち温熱、静水圧、浮力に伴う健康上の効果については、「銭湯で元気」で何回か説明してきました。そこで、何度くらいの湯船に何分くらい肩までじっくりつかるのが体によいのか……、という話になるのですが、今回はこの僥倖を積極的に利用して、さらに「銭湯で元気」になるプランを紹介したいと思います。

それは銭湯の広い湯船を利用して体を動かすということ。つまり家庭の狭い浴槽では実現しにくい銭湯ならではの効用です。

水中での運動は「ハイドロセラピー」「ウォーターエクササイズ」「アクアセラピー」などいろいろな名前が付けられていますが、いずれも同義語で健康の保持増進を目的として世界中で行われています。水中運動は水の持つ様々な特徴を利用して行うもので、この特徴を「アクアパワー」と呼んでいます。アクアパワーには入浴の3大作用のほか、抵抗、水流などの作用要素が加わる、と医学的に説かれており、日ごろ運動不足になっている人や高齢者にとって、重力の負担が大きいため関節にダメージを与えやすい地上での運動より効果が高いとされています。水中運動を経験された方はこういう効果を感覚的にお分かりになると思います。

th_3

歩行湯の湯船がある足立区・大平湯(女湯)

 

例えば「水中の物体は重さが空気中の10分の1になる」という浮力の作用は、関節痛の人や筋力が低下している人の歩行訓練にうってつけです。また、水の抵抗は動かす部位の速度の約二乗かかるため、下半身や体幹の筋力増強に大変役立ちます。さらに、温かい湯船の中で運動することは、温熱効果により関節の柔軟性や手足や体幹への抗痙攣作用が期待されます。

静水圧が血流循環に効果を及ぼすことは以前説明しましたが、足の血液が心臓に向かって流れる、いわゆる静脈還流が活発になるのはこの静水圧効果のおかげです。静脈還流が増加すると脈拍は低下傾向になるため、運動には有利な条件となります。また、静水圧と水流が相互作用することによって、例えば足の運動をしているときに、その足の動きを陸上で動かすときよりも強く意識させるため、これが脳神経系を刺激して機能の回復や維持に役立つことも指摘されています。

こうした医学上の利点もさることながら、湯船の中での水中運動は安全かつ楽にできるため、楽しさを演出でき、習慣化して長く続けられるよさがあるといえるかもしれません。では、水中運動にはどんな種類があるのでしょうか。

大きく分けて水中運動には、エアロビクス(心肺持久力運動)的なもの、トレーニング(筋肉調整運動)的なもの、ストレッチ(柔軟性運動)的なものの3種類があり、これらをバランスよく組み合わせて行うことが大切です。基本的には顔の部分が水に浸からないように行うこととされています。水の抵抗が重く感じられて、何かいい運動をしているみたい、それなのに浮力のおかげで体がすごく軽い、というのが水中運動と陸上運動の決定的な違いでしょうか。

th_2

銭湯の広い湯船なら体を動かせる(台東区・ひだまりの泉 萩の湯

 

水中運動は生活習慣病の中でも2型糖尿病や高血圧症の人に向いているため、運動療法として処方されることもよくあります。糖尿病の場合、水中運動を行うことにより筋肉がエネルギーとしてブドウ糖を取り込んで、血糖値を下げることができるからです。しかもインスリンの働きがよくなって、すい臓の負担も軽減されます。もちろん糖尿病患者に多い肥満の解消にも役立ちます。

水中運動の有酸素運動効果は、タウリンやプロスタグランジンなど、血圧を下げる物質を体内に増加させます。逆にカテコールアミンなどの血圧上昇物質を減らすことも分かってきました。浮力によるリラックス感も、血圧の安定に役立つといわれています。

生活習慣病の治療として行う場合は医師の監督指導が欠かせませんが、湯船の中で関節を動かす、体を伸ばすなど小さな動きを加えながら温まることを習慣化することで、健康な入浴ライフは一層その幅を広げることでしょう。具体的な湯船の中の水中運動については、引き続き説明していきたいと思います。

参考資料:『銭湯における温熱効果の予防医学的意義に関する研究』(2004年、主任研究者・阿岸祐幸北海道大学名誉教授)


th_map

銭湯の検索はWEB版「東京銭湯マップ」でどうぞ

 

 
th_銭湯マップ2017表紙

新しい銭湯お遍路マップ(2017年10月10日発行)は1部100円(税込)で、都内の各銭湯にて販売中