(上写真)黒湯温泉を提供する御谷湯(墨田区) 撮影:望月ロウ(ロウクラフト)


銭湯PR誌『1010』第136号が、6月上旬より都内の公衆浴場などで無料配布されています。その誌面で、東京の温泉の中でも代表格の「黒湯」の素晴らしさを紹介しています。特に、国際医療福祉大学大学院の前田眞治教授のチームが行った東京の温泉に関する医学的な調査研究は、まさに「遠くの温泉より近くの銭湯」を彷彿とさせる内容でした。今回は誌面で詳しく触れられなかったこの調査研究内容について、ご紹介しましょう。

この研究調査は、2011年8月に「東京都23区内の温泉と期待される温泉医学的効果」と題する論文にまとめられています(日本温泉気候物理医学会誌第74巻4号)。調査は、協力が得られた都内20区64ヵ所(東京都浴場組合加盟の銭湯については1010誌に掲載してあります)の源泉の温泉成分表を集め、「そこから導き出せる温泉効果について検討」しました。

都内の温泉は大田区に集中していますが、ほぼ全都区部に分布していて、泉質はナトリウム塩化物泉(食塩泉)、ナトリウム炭酸水素塩泉(重曹泉)、メタケイ酸泉の3タイプに大きく分かれます。Phは7.1~8.8、平均8.0の弱アルカリ性成分が多く、皮膚に対しては皮脂などを溶かして滑らかにすることが認められる、としています。

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黒湯炭酸泉、黒湯、黒湯の水風呂と3種類の黒湯を提供する改正湯(大田区)

 

深度掘削別の温泉成分は、1000mよりも深いところではナトリウム塩化物泉が集中し、500m未満にはメタケイ酸泉が集中しています。そして1000mよりも深いところのほうが温度が高く、ナトリウム、カリウム、塩素などのイオンが多く含まれて成分合計が多く、500m未満のほうはややアルカリ性であることが特徴だ、と述べています。東京の温泉の特徴である黒湯は、前述の3種類の泉質にフミン酸が加わったものであることは1010誌で述べましたが、この黒湯は塩類濃度が低く、塩類泉としての効果は少ないものの「弱アルカリ性泉としての効果が期待できることがわかった」としています。

温泉には病気やけがの治療に向くものと、温熱効果のみを期待できるものとがあり、前者を温泉法では「療養泉」に分類しています。療養泉に認定されるには、源泉が25℃以上であるか、溶存物質や二酸化炭素や鉄イオンなど指定された物質が1つは含まれていなくてはなりません。つまり、温泉としての価値が高いのが療養泉なのですが、東京の温泉はどうなのでしょうか。研究論文にはこう書かれています。

「この調査を通じて確認できたことは、都内に高濃度のナトリウム塩化物泉や弱アルカリ性泉などの十分療養泉として活用できる温泉があり、温泉医療に十分利用可能なことである。都内には温泉療法医も多く、温泉療法の対象となる人口も多いのが現状で、ごく身近に効果の期待できる温泉も多数存在している。自然の環境的要因を期待することは困難かもしれないが人工的な環境も利用可能であり、東京都区内は十分活用できる立派な温泉地と考えられる」

この結果、「従来困難と考えられてきた都内での温泉療養」も不可能ではないとしており、つまるところ温泉銭湯を日常的に利用することによって、温泉療養と同じ効果が期待できるとしているのです。具体的には、

① 東京の温泉地の中でも海水に近い4%の食塩温水では体温が1.5℃程度上昇し、その後低下するまでに時間がかかるのでいつまでも温かいこと

② 重曹は水に溶けるとアルカリ性になり、石鹸効果を発揮する。それによって皮膚の油やたんぱく成分と結合して皮膚の表面を少し溶かすので肌がすべすべする、いわゆる「美肌の湯」として知られる清浄効果がある

③ メタケイ酸には皮膚を保護する作用があるので、荒れ肌などに対する医学的効果が期待できる

などが指摘されています。

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東京のど真ん中で温泉を提供する麻布黒美水温泉 竹の湯(港区)

 

東京の温泉銭湯は大半が黒湯(フミン酸を含む湯)ですが、黒湯以外の泉質もあります。また、同じ黒湯でも濃度の違いがあります。こうした違いが楽しめることも東京ならではと思います。1010誌で説明したように、劣化しない東京の温泉を、改めて真剣に「健康づくりのアイテム」として見直そうではありませんか。


(「銭湯で元気!」は毎月第2金曜日に更新します)

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WEB版「東京銭湯マップ」では、温泉のある銭湯の検索ができる