銭湯の人気アイテムサウナ。このサウナを利用する人は多いですが、普通の浴槽入浴との違いはどこにあるのでしょうか。浴槽入浴の効果は3つあると以前ご紹介しました(銭湯で元気!⑳)。「温熱効果」「浮力効果」「静水圧効果」です。

この3つの効果のうち、サウナにあるものは「温熱効果」のみ。つまり体が温まることが最大のメリットなのです。しかも乾式の高温サウナでは100度近い環境で体を温めるわけですから、温まり方は浴槽入浴よりはるかに大きいのです。体が温まって何がよいのかというと、室内の空気が全身の皮膚を刺激するため、自律神経の中の交感神経の働きが強まり、その結果、全身の血管が広がって血液の流れが非常に良くなる(平常時の2倍近く)わけです。

人の体には37兆2000億個の細胞があるといわれていますが、その細胞に酸素や栄養を送っているのが血液。つまり血液は兵站(へいたん)と同じ補給の要なのです。そればかりか、細胞が活動した後に発生する二酸化炭素や老廃物を回収するのも血液の役目。回収が滞れば、細胞は疲弊してしまいます。体を温めるということは、この血液の流れを元気にしてやることなのです。だから血液の流れがよくなるということは、必然的に疲労が回復することにつながるわけです。

サウナに入ると汗をかいて疲れが取れる、と思っている方が多いようですが、汗をかくことで疲労がなくなるのではありません。疲労回復の原因は、あくまでも血液の流れがよくなるからなのです。

浴槽入浴にあって、サウナ浴にはないものが「静水圧効果」です。これがあるために、浴槽入浴には血行を良くする効果があると以前書きました。ただ、浴槽内でのお湯の水圧は、元気な人なら全く問題ありませんが、高齢者や心臓に持病のある方ですと、息苦しさを感じる場合があります。その点、サウナ浴なら水圧がかかりませんから、温熱効果だけを得られるというメリットがあります。高齢者や心臓に持病のある方は、60度くらいの低温サウナに10~15分程度入るのが安全で効果的といえるでしょう。

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サウナは銭湯の人気設備(写真は台東区の湯どんぶり栄湯のサウナ)

 

さて、高温の乾式サウナは交感神経を興奮させますから、精神状態をシャキッとさせる効果があります。これは朝、熱い湯に入る効果と似ています。したがって、サウナ入浴後はすぐに寝付くのは難しいでしょう。安眠効果を望むなら、むしろ低温の湿式サウナに限ります。こちらは自律神経の副交感神経に働き掛け、鎮静効果が得られますから、活動的な昼のリズムから休息のリズムへと自然な転換が期待でき、快適な睡眠を得るのに役立ちます。

前回(銭湯で元気!㉓)、サウナに人々が期待するものとして「やせたい」「疲れを取りたい」「美肌になりたい」「寝つきをよくしたい」をあげました。疲労回復と寝付きについては、説明したとおりです。では、美肌効果はあるのでしょうか。

フィンランドでは「女性が一番美しいのはサウナから出た後の1時間」といわれているそうです。熱い空気に触れると皮膚表面の血管はまず収縮し、体温の上昇にしたがって徐々に拡がってゆきます。この作用を利用し、血管の収縮・拡大の調節能力をよくして皮膚の生理機能を活発にすることが美肌作りのコツ、と美容研究家は指摘します。この論に沿ってみれば、低温のサウナに時間をかけて入ると、日ごろ機能しない毛穴が開き、汗腺が活性化して皮下の老廃物を排出する、だから美肌になる、ということになるのかもしれません。1時間で効果が薄れるのはさみしいことですが

サウナでやせたい、という期待はどうでしょうか。皮下脂肪は熱を伝えにくく、そのため肥満した人は汗が出にくい傾向があります。しかしいったん汗が出始めると、勢いよく発汗します。皮膚から1mlの汗が気化するときには0.58キロカロリーの熱量を奪うとされていますから、たくさん汗をかけばその分体重が減るのは事実。サウナ入浴後に体重を計ると、1キロくらいは減っているものです。しかし、入浴後は水分の補給が必要ですから、減っているのは一時的なもの。サウナだけでやせようとするのは邪道です。食事と運動を適正に組み合わせることが大事です。

こうしてみると、医学的なサウナの効果は温熱効果にまつわるものに限定されるといっていいでしょう。ただし、正しい入り方をしないと、温度の高い空間であるサウナは危険な場所になりかねません。よく見かける光景ですが、先に入っているアイツより先に出るものか、という我慢大会のような入浴法は論外。あっという間に熱中症になってしまいます。

適切な入浴時間は室内温度によっても異なりますが、100度近いサウナなら5分程度、長くても10分以内にとどめておくべきでしょう。安全性を考えれば、乾式サウナなら60度くらいの低めの温度、湿式(ミスト)サウナなら40~50度で10分ないし15分を推奨します。

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サウナの後は汗を流してから水風呂へ!(写真は西東京市のゆパウザひばりのサウナと水風呂)

 

もうひとつの注意点は、サウナを出た後の水風呂の使い方です。熱いサウナからいきなり冷たい水風呂に飛び込む方も時折見受けられますが、これはマナー違反であるだけでなく、心臓への負担が非常に大きく、血圧が急激に上がり、不整脈や狭心症につながる場合もあります。シャワーでまず汗を流してから水風呂に入りましょう。医学的には30度くらいのぬるま湯がお勧めです。これでも十分冷たく感じます。フィンランドでは、サウナ浴とクールダウンを3回、4回、5回と繰り返すのが一般的だそうですが、医学的には1度の入浴につき2回くらいでとどめておくのが安全としています。


(「銭湯で元気!」は毎月第2金曜日に更新します)

 

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