銭湯の人気アイテムの一つがサウナ。サウナには乾式、湿式がありますが、「やせたい」「疲れを取りたい」「美肌になりたい」「寝つきをよくしたい」などさまざまな目的でサウナを利用する銭湯ファンがたくさんいます。

今回は銭湯のサウナに関する医学知識をひも解いてみましょう。

そもそも、サウナの由来はなんでしょうか。サウナはフィンランドで生まれた熱気浴。太陽の恩恵の少ない北欧の風土の中で一種の健康法として登場し、独特な生活様式として防寒や疲労回復に欠かせないものとなりました。日本には1960年代に紹介され、都市を中心に多くの施設ができ、新しい入浴スタイルとして定着しました。

発祥の地フィンランドでは、ロウリュ式といって石を熱して密閉された浴室を温め、熱気を充満させます。湿度は10~15パーセントくらい、温度は80~90度になります。その浴室の中で裸になって座ったり横になったりして、発汗が始まるのを待ちます。汗が出始めると、桶に入れた水を焼けた石に掛けて蒸気を発生させ、乾燥したサウナ室内の湿度を70パーセントくらいまで上げます。

湿度が急に高くなると皮膚が刺激されてヒリヒリしますが、これが発汗を促進する効果をもたらします。汗をかいたらシラカバの若枝を束ねた「ヴィヒダ」で体をたたき、さらに皮膚を刺激します。このような入浴法は、森林伐採の重労働に携わる人が多かったこの国において、激しい労働の疲労回復に役立ったようです。

さて、サウナでほてった体をフィンランドの人たちはどうするのでしょうか。北欧のサウナ小屋の多くは湖のほとりに建てられており、サウナを出ると人々は近くの湖に飛び込んだり、雪の中をころげまわったりしてクールダウンします。日本のサウナでは冷水シャワーを浴びるか水風呂に入りますが、これと全く同じように体温を冷ますわけです。フィンランドではこの動作を3~4回くり返して、その日のサウナ浴を終了します。

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湖のほとりに建てられたフィンランドのサウナ

 

日本の伝統文化として銭湯の継承を望む声が高くなっているのと同じく、フィンランドでもサウナ文化の普及が関心の的になっているのだそうです。「毎日サウナに入ると長生きできる人が増加」という研究結果が2015年2月にアメリカの医学会雑誌『JAMA』へ発表されたことも、その関心の表れと言えるでしょう。

東フィンランド大学が行った同国在住の男性2315人を対象とした20年にわたる調査によると、サウナに通う頻度の高い人ほど心臓病リスクを含む全死因による死亡率が低かったというのです。週に1回未満の人と4回以上サウナに行く人を比較すると、突然死は後者が63パーセント、冠動脈疾患死亡者は同48パーセント、それぞれ前者より低下しているという内容でした。論文の著者は「回数は多いほうが良い結果になっていました。もちろん週2~3回でも効果があるようですが、最もリスクが低かったのは4回以上サウナに行く人でした」と別の雑誌で述べています。フィンランドはもともと高脂肪食の摂取が多いために、心臓病リスクの高いことが国民的課題でしたから、このサウナの効果は大いに関心がもたれたに違いありません。

この論文でもう一つ興味を引いたのは、サウナの入浴時間によっても効果に差があるとわかったことです。入浴時間11分未満の人と19分以上の人を比較した場合、19分以上のほうが突然死や心血管系疾患の死亡リスクが低下していたとされています(11分、19分という中途半端な時間設定の理由は分かりませんが)。同著者は「サウナ浴で心拍数が上がり発汗が促された結果、運動したのと同様の効果が期待できます。そのためにサウナ浴後は運動後と同じようなリラックス効果が得られるのでしょう」と語っています。

もっとも、このフィンランドの調査結果を日本人にそのまま当てはめることへの疑問視もあります。長期にわたる調査とはいえ、調査対象数は男性のみで必ずしも多いとは言えませんし、調査結果の根拠も「サウナ入浴は心臓の機能を強める、血圧を下げる、熱に対する耐性を改善する、肺活量を増やす」ことなどが推測されるという域を出ていないからです。

また、低温の湿式サウナを別にすれば、銭湯のほとんどのサウナはフィンランドのロウリュではない100度近い乾式サウナなので、そのまま当てはまらない、ともいえるでしょう。高温のサウナ室に入って心拍数が上がるということは、心臓にそれだけ負担がかかっているわけですから、心臓に持病のある人は長時間のサウナ入浴は避けるべきでしょう。しかも乾燥した室内で長時間のサウナ浴をすると、熱中症にかかったのと同じ状態になり、脱水症状を引き起こしますから、入浴前後には水分補給を十分にすることが大切です。

ところで、最初に触れましたが、銭湯ファンがサウナに求める期待は「やせたい」「疲れを取りたい」「美肌になりたい」「寝つきをよくしたい」などが主なものでしょう。医学的にサウナはこれらの期待にどこまで応えられるのでしょうか。(次号に続く)


(「銭湯で元気!」は毎月第2金曜日に更新します)

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