2016年9月より配布が始まった『1010』誌の第133号。この号の記事で、最近の銭湯ブームを牽引する一因となった炭酸泉について解説しています(「銭湯の人気アイテム・炭酸泉大解剖」)。この炭酸泉、実は医学の分野でも効能が発表されていますが、スペースの都合で掲載できなかった情報をお知らせします。

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一つは日本温泉気候物理医学会雑誌の第75巻第1号(2011から12年)に掲載された「炭酸泉の医学的効果」という論文です。学術論文なので、主な内容をわかりやすく解説しますと、

・炭酸には血管を拡張する作用があり、炭酸泉につかると血液中の炭酸濃度が高まって血行が改善する。

・炭酸泉なら低い温度でもこの効果があるので、床ずれの人や痛みのある閉そく性動脈硬化症の人でもお湯の熱さが苦にならずに入浴できる。

・血管拡張作用があるため、高血圧の人には降圧効果がある(全身浴で20〜30低下)。ただし自律神経障害のある人は、血圧低下の度合いが大きいため注意が必要。

・炭酸泉は熱を感じる神経を鈍感にするため、水道水を温めたお湯より2℃程度温かく感じる。だからぬる湯に長く浸かれる利点がある。

・拡張した血管に熱エネルギーが取り込まれる結果、体温が大きく上昇し、関節痛などの痛みを和らげたり、筋肉が緊張しすぎて手足が動きにくくなるような症状(神経痙縮)を抑えたりする効果がある。

・体温が上昇する結果、NK細胞が活性化して免疫力が高まり、ヒートショックプロテイン(傷んだ組織の修復に役立つたんぱく質)を増やす。

・水道水のお湯に同じ時間浸かった状態と比較すると、エネルギーの消費にそれほど大きな差がないので、糖尿病、肥満症などいわゆる代謝性疾患の治療を目的とするなら運動療法と組み合わせる必要がある。

・炭酸泉の小さな泡は、人体に対する何らかの作用は認められない。水に溶けた炭酸ガスは、垢やゴミが核となって気泡化することがあるから、皮膚はより清潔になると期待される。また、弱酸性なので肌に優しいため、美容業界で普及しつつある。

これは北里大学の前田真治教授の論文ですが、前田先生はいち早く炭酸の持つ様々な効用に目をつけ、長年にわたって独自に研究を進めた結果、現在の炭酸ブームにつながる多くの研究成果を上げられ、第一人者の地位を確立しました。

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炭酸泉には運動療法的効果もあるとして、治療に使っている医療機関もあります。名古屋にある医療法人・偕行会のホームページには「人工炭酸泉による治療を推進。炭酸泉治療は血液循環の改善に大きな効果があり、足浴により末梢動脈疾患(PAD)患者の下肢切断率の低下や予後改善、全身浴では慢性心不全の治療に貢献しています」とあり、「通常は切断をしなければならない状態でも、炭酸泉の足浴を継続して行うことにより血流が改善し、足を切断しなくても済んだという事例を非常に多く経験しています」と実績を挙げています。ここでいう末梢動脈疾患とは、前田論文の閉そく性動脈硬化症と同じ病気です。改善例の写真は、下記に掲示されています。
http://www.kaikou.or.jp/group/section_tansansen.html

血管が拡張して血行がよくなる、炭酸泉の医学的効果に関する考え方のベースはここにあります。普通の入浴も温熱効果や静水圧効果などによって血液の循環が改善・促進されることはよく知られていますが、炭酸泉は入浴効果の効率をさらに高めるアイテムであることが医学的に証明されたということになります。家庭では導入が難しい高濃度炭酸泉、ぜひ銭湯でその御利益を受けたいものです。

炭酸泉を設置してある銭湯の一覧はこちら

 

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黒湯温泉+炭酸泉を設置している改正湯(大田区)


(「銭湯で元気!」は毎月第2金曜日に更新します)